理性的に恋をする

マネージャー視点

※マネージャー視点

野々宮という“子供”に同情をしたことは一度も無かった。

スカウトをしたと連れてこられた少年を見た時、確かに会社の上層部が興奮気味に彼の話をしている意味が分かった。
彼は多分、その年齢に合わない大人びた表情をしていた。

けれど自分にはとても子供に見えた。
保護者の承諾を取るために母親の元を訪れたときも無表情に見栄にまみれた母親を見ていた時も、実家関連の話がでた後、決まって素行が悪くなることも子供のままの大人になれない人間なのだと思うだけだった。

この業界そんな人間も別に珍しくはない。

体はもう大人のそれと変わらない。けれど、と思わない訳ではなかったが商品としてきちんとメンテナンスされていればそれでよかった。

その商品が超高級品であり続けなければならないという条件はのしかかってはくるが、商品として大切に育てていた。


それが、変わったのはいつだっただろうか。
仕事終わりの送迎が自宅がほとんどになったころだろうか、それとも以前よりもトレーニングに励むようになった頃だろうか、それともよく家に来ていたこのためにシャンプーの銘柄を変えた頃だっただろうか。

それでも、相変わらず仕事中以外、野々宮は酷く不器用で子供のままの男に見えた。

仕事に向かうため自宅に迎えに行った際、いつも同じ人間が家にいる事に気が付いたときにそれは確信めいたものに変わっていた。

そもそも、友人にしろなんにしろ遊び相手の様な相手を家に上げる様な事は一回も無かった。
それどころかもしかしたら人を自宅に招いていること自体ほとんど見たことが無かったかもしれない。

うちの野々宮と同い年だと聞きだしたのは本人がシャワーを浴びていた時だろうか。

不規則な生活の中友人でいてくださってという社交辞令を聞いて、その子はこちらが驚く位恐縮していた。
それから小さな声で「友達とかそういうんじゃないです……。」と言ったことが印象的だった。

ただ、友達じゃない恋人ですって感じとも全く違っていて、それ以上聞けなかった。
俳優としての野々宮にそもそも正式な恋人はいない筈なのでこちらとしても掘り返したくはない話題だった。



「はい野々宮君、迎えに来ました。」

遠慮していたら、本当にギリギリまで家から出ようとはしない。
だから預かっている合鍵で勝手に彼の自宅に入る。

昔からしたらありえないと思う様な変化だった。

ただ、それをだらしないとも、良くない傾向だとも思ってはいない。

事実、ありもしないしない熱愛を報道されて以降、さらに野々宮隆朝の俳優としての実力は上がっている。
それは本人も気が付いているだろうし自分も気が付いているし、周囲も分かっていることだ。


野々宮は玄関からリビングへと延びる廊下で恋人と別れを惜しむ様にキスをしていた。
相手の性別に関わらず、こんなところもし写真にとられたらと思う様な光景だけれど、もう見慣れてしまった。

どうせ、時間だからという恋人に野々宮が我儘を言ってこういう状況になったのだろう。
それは何度も会った事だからもう予想できてしまう。


真っ赤になった恋人がこちらを見て無理矢理野々宮を引きはがそうとしている。
こんな時でも絶対に顔を押しやったりしないあたり、彼が俳優であることをよく理解している。

「急ぎましょうね。一泊二日予定のロケが二泊になってしまいますよ。」

自分がそう言うと、野々宮は舌打ちをしてそれから恋人が準備したであろう旅行用のカバンを持ち上げた。

「とっとと行くぞ。」

まるでこちらが迎えに来て、なおかつ待っているという事実を忘れているかの様に野々宮は言う。

明らかにグダグダの状態なのに彼の恋人は「いってらっしゃい。」と優しく声をかけている。
恋人という形に収まる前から園宮という少年にとって野々宮が特別だということは分かっていた。

けれど、その控えめに言われた言葉が響いた気がした。


野々宮と二人無言でエレベーターに乗って車へ向かう。


疲れているのだろうか。
理由もなく恋人のような何かが欲しくなる。

「もの欲しそうに見ていても園宮はやらないからな。」
「別に人のものを羨ましく思うタイプではありませんよ。」

車に乗り込むと野々宮が言う。
エンジンをかけながら答えるとその言葉に特にそれほどの意味は無かったらしくすぐに野々宮は瞳を閉じてしまった。

いつも自分の前でこの男はこんなものだ。
お互いの立ち位置をきちんと理解しているし、お互いにそれ以上基本的には立ち入らせない。

だからこそ、そんな彼が家でだけ見せる笑顔が少しだけ羨ましくなっただけだ。

恋人を探そうか、なんて真剣に考えて、それから自分には向かないと思いなおして、ハンドルを握る手に力を入れた。



お題:マネージャー視点。二人らしいイチャつき。

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