明けの明星、宵の明星
2
◆
俺の知らないアルファの匂いがして、目の奥で火花が散る様な怒りにかられた。
このオメガは、杉浦 蒼輝は俺のものなのだ。
普段は名前すら認識しようとしてはいなかった。その名を認識するだけで理性がチリチリと焼かれるようだ。
「……友人というのは、お前にべっとりと匂いをなすりつけたアルファのことか?」
自分の声が取り繕えてさえいないことは頭の片隅で分かっていた。
結局我慢などできはしないのだ。
それなのに、蒼輝は見当違いの事を話していた。
「俺とお前は、遺伝子上の運命の番ってやつだ。」
最初から分かり切っている事実を言葉にすると、蒼輝は驚愕の表情を浮かべた。
ああ、そうなのか。特異体質だと医者から説明されたがそういうことだったのか。
ようやく、今までの事を理解した。
それから、この運命でさえ判別できないオメガがほぼ唯一感じ取れるフェロモンが俺のものだということにも教えられた。
もはや頭の中にあるのは暴力的な衝動だけだった。
それなのに、俺の婚約者は、俺の運命は、あろう事か俺の体の心配なんぞしているのだ。
思わず彼の項に歯を当てていた。
まるでセックスで感極まった様な声をあげた番が、それだけで達してしまった事にはすぐ気が付いた。
けれど労わってやるようなことはできなかった。
それ以降の事は断片的にしか覚えてられてもいないのだ。
◆
自分の番を誰かに見せることに抵抗はあった。
けれど、番になってフェロモンの出方は明らかに変わっているうえに自分の番が特殊体質だということはきちんと理解していた。
仕方がなく呼び出した辻川は開口一番「ようやく、運命の人と番になれたのかい。おめでとう。」と言った。
俺が驚いて友人の顔を見る。
「そりゃあ、番の匂いがしなくたって分かるものは分かるさ。」
君の番の様子だって普通じゃないこと位気が付いていたに決まってるだろ。これでも医者なんだから。
そう言って笑われた。
「じゃあ、なんで。」
その事実を俺につきつけなかったのか。蒼輝に伝えなかったのか。
辻川は笑顔を浮かべた。
だって、不用意に伝えたら君たちの関係絶対にこじれるじゃないか。
そう前置きをしたのち辻川は言った。
「友達だからかな。
……まあ正直君からする匂いは不快そのものだけどね。」
それについては同感だった。
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