ご指名相手は俺ではありません

葛藤編1

アオイが同伴出勤できなかった日から、堺からのメッセージの感じが少し変わった気がした。


勘違いなのかもしれない。
それにあの日、堺は別の女の子もつけてかなり豪遊していた。

「堺さんとメッセージしてるか?」

あの日席についていたリナに聞く。

「えっと、何回かメッセージやり取りはしたよ。」

特別だよと言って、リナはスマホのトークアプリを起動した。
客からのメッセージを面白がって見せないあたりは、さすがだと思う。だけど結局は見せてしまっているのだから変わらないのかもしれないけれど。
だけど今はそれがありがたかった。


そこに書いてあったのはアオイと最初にやっていた様な、まるでビジネスメールかよという応酬だった。

「何書いても、基本すみませんって感じだから、最近はあんまり連絡してないよ。」

アオイのメッセージの参考にしたいんでしょ? とリナは笑った。

やはり何か違和感がある。
今のアオイに向けてのメッセージのやり取りどリナのそれはどこか違うのだ。

当たり前の事なのかもしれない。堺は元々アオイの客で、堺が気に入っているのはアオイなのだ。

胃の奥のあたりがチリリと痛んだ気がした。

そんな馬鹿なとか、メッセージに感情移入しすぎじゃないかと思ってしまう。
だって、女の子だっていちいち本気で恋愛してるわけじゃなくて、仕事でやってるのに自分でもバカじゃないかと思う。

と、そこでようやく気が付く。

仕事だとかそうでないとかそういう問題じゃない。


女の子と遊びに来ている同性の人間に対して別人のふりしてメッセージのやり取りをしているだけなのだ。

完全にそれ以前の問題で、感情移入がどうとかという前に気が付かなくてはいけないことがあった。

思わずうなりながら頭を抱えてしゃがむとリナが意味も分かっていないのに面白そうにケラケラと笑った。

「アンタなにしゃがみこんでるの?」

少し離れたところにいたアオイに突っ込まれる。
誰の所為だ誰のと言いたいところをぐっとこらえる。

それでも、仕事を辞めてしまえばとは思えなかった。

だけど、俺がアオイですともなんとも、伝えようとも思わなかった。

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