光芒にうたう

2

竜が現れたことは街でもすぐに話題になってしまったため、仕事にせよなんにせよすぐに辞めることができた。
夢が竜の番の印であると知ったときからある程度覚悟していた事であったし、準備もしていた事だった。

ハガネにつれられてきた竜の村はぼんやりと霞がかっていて、不思議にいい香りのするところだった。
けれど、別につれてこられるのがどこでもかまわなかった。

「ハガネ……。」

そっと彼の体に触れる。日の光がうっすらとしか差してない場所でもハガネの鱗はとても綺麗だ。
俺と同じ人間の様な姿のときも今のように竜としての姿のときも彼の鱗はハガネの名にも彼の姿にもとても合っている様に見えた。

「ヒナタ。愛してる。」

夢の中で何度も聞いた言葉だった。
けれど、現実では初めて聞かされた言葉だった。

また、涙がこぼれた。

「ヒナタは泣いてばかりだな。」

ハガネに言われて、思わず袖口で涙をぬぐった。


「そろそろ、晴れ間が見えそうだ。」

ハガネはそう言った。

「ヒナタ背中に乗って?あの時みたいに一緒に空を見よう。」

天気はハガネの言ったとおり少しずつ晴れてきていた。夢で見た空よりも青くて空が高く見えて、まぶしかった。

「ハガネ。迎えに来てくれてありがとう。」
「遅くなってすまなかった。まだ、生まれていないと隠してすまなかった。」

ハガネの背中に頬を寄せると暖かくて、また泣いてしまいそうになった。

グルル

喉の奥でハガネが鳴いた。
それは威嚇とは違っていて、優しい、優しいうたうような声だった。

竜の本来の声なのだろう。人間である自分には何を言っているのか分からなかった。
だけど、ずっと聞いていたい。優しい鳴き声だった。

「俺もずっとハガネのことが好きだったよ。」

夢の中では何度も言った言葉をもう一度伝える。

グルル
まるで分かっているよと言うみたいにハガネはもう一度短く鳴いた。


ひとしきり空を飛ぶと、これから二人で暮らすらしい家に案内された。


新居は俺のためなのだろう、人間のものに近い内装になっていた。
けれど、竜が人とは違う生活様式で暮らしている事は体のつくりの違いからも想像できた。


竜は眠るときに人間の様な布団をかけない。そのくらい俺でもわかる。
けれどこの人は俺にあわせて大きな体に申し訳程度に布団をかけて寝ようとしている。
それが、愛しかった。


「それでは、また夢で。」

俺が就寝の挨拶をすると、ハガネはグルルと喉の奥で一声鳴いた。
その声が心地よくて、俺は布団の中ですぐにうとうととまどろんでしまった。

愛する人に夢でもまた逢える幸せをかみ締めて俺は眠りに落ちた。



お題:人外×人間 夫婦または、付き合い始めのお互いにお互いが好きな感じ

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