明けの明星、宵の明星

2

「なに、アルファに興味があるの?それともオメガに興味があるの?」

聞かれたが答えられない。

「誰か好きなアルファかオメガでもいるんじゃないの。」

タスクと呼ばれていただろうか、からかう様に言われて、思わず都竹さんを思い浮かべてしまった。
それがいけなかったのだろうか、思わずギクリと体を固くしてしまった。

あまりにも露骨だったのだろう。

「まさか本当に?」

と心底馬鹿にした声色でオメガに言われる。

安藤が溜息をついた音を聞いた。

けれど、都竹さんの事も、それから自分の事も何一つ話す気にはなれずそのまま黙々と目の前の食事を口に運んだ。



巣作り衝動はヒートの前兆だとは知っていた。
けれど、薬である程度コントロールができていたから油断していたのはあったのかもしれない。

それに、オメガと関わってしまったことも誘発の原因かもしれないし、あの時都竹さんの事を考えてしまったのも駄目だったのかもしれない。

どちらにせよ発情の兆候が出ていたのに普段通りの生活を送ろうとした自分が悪い。それだけは分かっている。

『もし、外出先でヒートの兆候があったら必ず連絡をしろ。』

あの人に言われた言葉が頭に浮かぶ。
でも本当に連絡をしてしまっていいのだろうか。

今の状態はまだ、自分が兆候に気が付いているだけだ。
今すぐ、薬を足して帰ってしまえばと思ってしまう自分の面倒さに思わず自嘲気味の笑い声がもれる。

どちらにせよまずは薬を飲むべきだろう。

空き教室に滑り込むと鞄を開けた。
今一人で講義に向かうところで本当に良かった。

ケースから取り出した即効性のあるタイプの抑制剤を開けようとしているところで、全く望んでいない人間が教室に入って来て思わず舌打ちをしてしまう。

「あれ……?安藤は?」

タスクと呼ばれていた男に言われ大きな溜息を吐いた。

「は?安藤はいないけど。」

いつでも一緒に行動している訳じゃない。
納得して早くこの場から立ち去って欲しいのに目ざとく俺の持っている抑制剤を目にとめて、驚きの表情を浮かべたのにニヤニヤと笑いだした。

「もしかして、オメガごっこでもしてるの?
そんなことまでして安藤に好かれたいなんて馬鹿なベータだね。」

言われていることの意味が分からなかった。

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