媚薬

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〜2018年7月の拍手お礼文 掌編



「で、これは何なんだ?」

目の前にある炭酸飲料を見て眉間を押さえながら俺が聞くと、馬鹿は「あっ、あっ。」と言葉にならない。

これがただの炭酸飲料じゃないことはすでに分かっているし、目の前の馬鹿はオロオロとしているだけだ。

それに、グラスに注がれた半分ほどを既に飲んでしまっている俺は、大体何を混ぜたか位は把握できている。

ホスト時代にこちら側の目を盗んで入れられた媚薬だか興奮剤だかに作用は似ている様に感じた。
だから、これがどんな物質か知りたいのではなく、何故こんな馬鹿げたことをしたかの申し開きをして欲しいというだけなのだ。

「理由を話すか、ここから出て行くかどちらかにしてくれ。」

自分が吐きだす吐息が熱い。
思考が滅茶苦茶になって碌でも無いことになるまで、もうそれほど時間は無いだろう。

だから、この馬鹿に申し開きすることが無ければ今すぐ出て行って欲しかった。

それともなにか恨みでもあってやった。一瞬だけ考えたそれは目の前で冷や汗をだらだらと流しながらオロオロとしている馬鹿を見て、無いな、と認識を改める。

「あの……。済みません。後藤さんがくれたシロップ混ぜたんですっ。」

頭を下げる馬鹿をぼんやりと眺める。
体はもはやのっぴきならない事になっていた。

「……後藤さんは何て?」
「あっ、落としたい相手に使えって。」

ごにょごにょと言っている馬鹿を見てようやく察する。
実験台にされたという可能性は媚薬を飲まされた俺より真っ赤な顔をしているであろう馬鹿を見て無くなっている。

それに後藤さんが依存性のある麻薬の類をこの馬鹿に渡すはずもない。

思考を他に持って行くのももう限界だった。

「ああ、糞。後ろの貞操は守ってたんだぞ。」

こんなことなら昔ソープのお姉ちゃんと前立腺プレイをしておくべきだった。

「ヤルのかヤラないのかはっきりしろよ……。」

スーツを脱ぎ始めると馬鹿からは俺よりも荒い息が聞こえて、まあ仕方が無いという気分になる。
優しくしろなんてクソ恥ずかしいことは言えそうに無いのでクスリがきくに任せて力を抜いた。





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