明けの明星、宵の明星

続1

「それ、最近ずっと巻いてるよね。」
「流石に目立つかな?」

安藤に聞かれそう返す。
ここのところずっとストールを巻いて大学に通学している。
講義も基本的には巻いたまま受けているし、悪目立ちしてしまっただろうか。
「別に、その辺はファッションだから周りも何も思ってないと思うけど。」

そう言いながら安藤は巻いてあるストールをずらして項をあらわにする。

「うわー。番の証以外にも相当噛まれてるね。」

慌てて安藤から体を離してストールを整える。

「見た目はほぼベータだからこれで充分だろ。」
「まあみられても多分ベータがふざけて番ゴッコした風にしか見えないけどな。
多分、フェロモンが結構特殊なんじゃないかなあ。
普通オメガの匂いって結構分かるもんだけど、全然しないしなあ。」

安藤に言われて少しだけ安心した。
オメガだと周りに知られていないというのは案外楽なのだ。

「どちらにしろ番持ちをどうこうしようって程の馬鹿はそうそういないしあんまり気にする事ないよ。」

そうは言われても、この噛み跡もそれが色素沈着した証も誰かに見られるつもりは無かった。

今日もいつも通りアルファとベータがつるんでるなんて珍しいと思われて過ごしていてそれでいいと思った。

* * *

「安藤君こんにちは。」

安藤に声をかけてきたのは細身で色素の薄い人で一目でオメガだと分かった。
見た目がここまで華奢で整っているのも。
恋人のいるオメガ特有のチョーカーをつけていることも、それから同じオメガとして匂いに拒否反応を体が示していることも彼がオメガであることを伝えていた。

「あれ、旦那は?」

安藤君に聞かれてその人は「正弘なら直ぐに来るよ。」と言って笑った。

「ベータの子と居るなんて珍しいね。恋人だったりはしないよね?」

そう聞かれて思わず目を見開く。
少し見下した様なもの言いにも、それから恋人という言葉にも驚いていると、安藤は笑いながら「恋人じゃないよ。友達。」とだけ軽い口調で言った。

俺がベータでない事については触れないでいてくれた。

「へえ。」

その人は俺を頭のてっぺんから足の先まで眺めると興味を無くしたように視線をそらした。

「ねえ、一緒にご飯食べてもいい?」

俺では無く安藤にその人は訊ねた。

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