親愛のイドラ

8

「別に興奮するだけなのになあ。」

あっけらかんと言われてぽかんと見上げてしまう。

「だって、染井ゲイって訳じゃないだろ?」
「それ言ったら吉野だってそうじゃないだろ?」

おっぱいとか滅茶苦茶目で追ってたよな。そう言われるが、そこまで目で追っていたかと思う。
確かに染井以外の男を好きになったことは無い。

だから自分がどうなのかはよく分からなかった。
ただ、染井だから欲しかったのかもしれない。


染井の長い指が自分の起立に触れる。ビクリと震えるそこをみて気を良くしたのか染井が笑みを深めた。

そのまま前をしごかれながら後ろに指を入れられる。
グチグチと粘着質な音を響かせながら染井が俺の体を暴く。

不安感と快感が混ざった様な感覚にどうしたらいいのか分からず、手はシーツを掴もうとしていた。何かに縋らないとどうにかなってしまいそうだった。

それでも染井は「あの日も、声を必死に我慢して、それからそうやって俺に縋りもしなかった。」と言って、指を増やした。

「縋って良いのか?」
「あたりまえでしょ。少なくとも今は恋人同士だよ?」

染井に言われてやっと染井の背中に腕を伸ばした。

「辛かったら爪立てていいからね。」

それだけ言うと染井は中を拡げていた指を引き抜いて、ギチギチに膨れ上がっているものをそこに押し当てて貫いた。

自分のそこが限界まで広がって染井を受け入れているのが分かる。
腰を打ち付けられて限界まで引き抜くを繰り返されて、足の先からゾワゾワとした感覚がせり上がってくる。
これが快楽と呼ばれる物なことを俺はもう知っている。

ああ、ちゃんと覚えている事もあるのか。


「ねえ吉野、思い出してよ。」

うわ言の様に染井が言った。

「吉野がどれだけ俺の事求めて、俺がそれに応えたか思い出して……。」

それは懇願に近い響きだった。
それでもあの日の記憶は断片的なままだし、染井に穿たれた体はもう快感しか追っておらず考えることさえままならなかった。

「好き。染井、好きだ……。」

多分アルコールが入っていなければ繰り返し伝えることなんてしなかっただろう言葉だった。
染井にしがみついてもっととねだるみたいに中が震える。

「もう絶対に忘れないから、染井も嘘つかないで……。」
「嘘はお互い様だけど、うん分かった。」

染井は俺の肩を掴むとグリグリと音がしそうな位腰を叩きつけた。

思わず声にならない悲鳴を上げてのけぞるのに肩を掴まれている所為で逃げることも出来ない。
それさえも飲みこむみたいに口付けをされて半ば酸欠状態で染井に縋ることしかできなかった。



「おい。」
「んー……。」

腰も痛いし、声もかすれている。
うつ伏せになったまま起き上がる気力も無い。

「前回も体動かすの辛かったのか?」

やけに神妙な声で聞かれて、でもそれがどういう意味か理解できるほど頭は働いておらずぼんやりと染井を見た。

ベッドサイドに腰を下ろす染井は俺の事を見下ろしていて、最中のけだるさが残る姿は色気を滲ませている。
けれど、それよりも眉根を寄せて辛そうな表情をしている染井の表情に、どうしていいかわからなくなる。

「それ隠してこの前は帰ったってことだよね。」

ぐしゃぐしゃに顔をゆがめて言われ、ようやく染井が何を言いたかったのかが分かった。

「俺は、嬉しかったから。」

聞えるか聞こえないかの音量だった。
だけど、染井はちゃんと聞きとってて相変わらず情けない顔のまま俺の頭を撫でた。

「酔った勢いだとしても、記憶が碌に残って無くてもそれでも嬉しかったんだ。」

だから、別に体はきしんでいたけれどその痛みさえ嬉しかった。

「平気だったとは言えないけど、だから別にいいんだよ。」
「でも、今日ほんとに辛そうだよ。」

心配そうに見る染井を見て思わず少し笑ってしまった。

「初めての時と同じ様にってなってたけど、多分全然違っただろ。」

最初はそうだったかもしれないけど最後は多分違ったのだろう。
あの日と気だるさが全然違うのだ。

きっと、あの時よりもっとずっと執拗に抱かれた気がした。
確認する方法は無いし結局あの日の記憶は朧げなままだ。

今日の記憶はギリギリちゃんとある。
ただ、アルコールの所為で色々と感情の制御ができなかったかもしれないとも思う。

「まあ、アルコールは暫く控えようと思う。」
「別に俺と一緒の時ならいいんじゃね?」

染井に言われるが、その都度色々思い出してしまいそうでやっぱり無理だと思った。



投票選択結果:
・染井は覚えているが覚えていないフリをしている
・染井は自分はソフトドリンクを頼む
・吉野は染井の家へ行く
・あの日のセックスをちゃんと思い出させようと追体験させる
でした!

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