親愛のイドラ
6
酔っていないと言えば嘘になってしまう。
けれど、明日朝起きてまともに覚えていないなんてことは、今日は絶対にないと断言できる程度だ。
それに、ゆらゆらと揺れる染井の瞳を見ていて、酔っぱらって何もわからない振りなんてできそうになかった。
「……あのさ、俺大丈夫だから。」
俺の口元に添えられた染井の腕、洋服の裾を掴んでそれだけ伝える。
「ホント、その色気どっから出てくるの?」
溜息なのか何なのか、大きく息を吐いてから染井は言った。
多分本当は色気も糞も無い。単なる酔っぱらいが染井の事をねだっているだけなのだ。
前回の事で、染井は勘違いしているのかもしれない。
それにつけ込む形になるかもしれない事は頭のどこかで分かっているのに、染井が自分の事を好きだと言ってくれた言葉に縋りたかった。
「あの時の事、ちゃんと思い出させて欲しい。」
言ってしまってから、ものすごい羞恥心に襲われて染井の胸倉に顔を埋めた。
ゴクリ。
染井の喉がなる音が聞こえた気がした。
◆
「ちょっ、ちょっとまって、あっ、やぁッ……。」
「この前はこんな風に止めなかったでしょ?」
「そんなの、知らないっ……、うぅっ……。」
シャツを肌蹴させられて、染井の手が上半身を撫でる。
胸の突起を指で撫でられて思わず染井の肩を押しのけると喉の奥で笑いながら染井はこの前と同じにするんでしょと言った。
断片的には覚えている筈なのに、頭も体も付いてこない。
あの日、染井の手はこんなに熱かっただろうか、俺はこんなあられも無い声を上げてしまっていたのだろうか。
少なくとも染井はこんな目で俺を見ていなかった筈だ。
こんな、獰猛な顔はしていなかった。
まるで欲しくて欲しくてたまらないという顔だ。
「鎖骨好きだったよな。」
そう言うと染井は俺の鎖骨に沿って舌を這わせる。
ゾワゾワとした感覚がはい上がる。それが快感と呼ばれるものなのかそうでないのかも判断できず、ただビクビクと震えてしまう。
鎖骨から顔を離して満足気な笑顔を浮かべる染井と目があって、羞恥とそれ以外の感情がないまぜになって、ぶわりと涙がにじむ。
「好きだ。」
染井は俺の目尻に唇をよせた。
それが、あの日には無かったことだという位さすがに分かった。
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