親愛のイドラ

5

どうやってごまかそう。どうやったらごまかせる?

体からザッと熱が奪われて手先が震えている気がする。
頑張れば、俺さえ頑張れれば友達でいられる筈なんだ。

「嫌だったなら、なんであんなに縋りついてきたんだよ。」

染井に言われ、もう駄目だと思った。

「染井、覚えて……。」
「やっぱり、吉野も覚えてるんだね。」
「おぼろげだけど、一応。」

染井が溜息を付いた。
思わずビクリと体を震わせてしまった。

「なんで、嘘ついたの。」
「……せめて友達でいたかったから。」

それ以外ある筈がない。それは染井も一緒だったから無かったことにお互いしようとしたんじゃないのか?

「せめて?」

染井が不思議そうに俺に聞く。
好きだって伝えられればいいのに、自分の口から出るのは染井を攻めている様な言葉だけだ。

「友達でいたかったから嘘をついたのは染井だって一緒だろう。
別に俺の事好きでもないのにセックスして、無かったことにしたかったのは染井の方だろ。」

あの日の事があって困るのは染井の方だ。後悔しているとしたら染井の方だろう。

「嫌な思い出、無かったことにしたいのは吉野だろ?」
「嫌だなんて言ってないだろう。」

絞り出すように言った言葉が持つ意味が分からない程お互いに子供じゃない。だから、きっともうこれで俺と染井はお終いだ。

それなのに、染井はゴクリと唾を飲みこんでそれから焦った様に口を開いた。

「確かに、した時は恋愛感情は無かったかもしれないけど、だけど吉野一々色気振りまいてるし、エロ過ぎだし、優しいし……。ああ、糞。そうじゃなくて……。」

別に俺は色気は振りまいていないし前と何も変わってないと思う。
染井は自分の髪の毛を乱雑に掻いてそれから今まで見たことの無い位真剣な顔で、俺を見据えた。

「気が付いたら、吉野の事好きになってたんだけど、俺みたいなのじゃやっぱり吉野に相応しくないかな?」

そう言うと染井はクシャリと苦しそうに眉根を寄せて、それなのに無理矢理作った笑顔を浮かべた。

色々限界だった。

「――ずっと、好きだった。
だけど、ずっと友達でいたかったから。」

酔っている所為だろうか。
涙もろくなっている様で涙がこぼれた。

「泣き顔も色気あるって、吉野凄いな。」

そんな事を言われ涙は滲んでいるものの思わず笑ってしまった。

「別に色気なんて無いだろ。いつもと同じ顔じゃねーの?」

むしろ、泣いているのと酔っているので割と酷い顔をしているであろう自覚がある。

「んー。俺が吉野に恋しちゃってるからかもね。」

軽い調子で一人納得した様子の染井の言葉に思わず顔が赤くなる。

「ホント吉野可愛いね。何で今まで気が付かなかったんだろ。」

そう言って染井は横に座ったまま肩を組んできた。
至近距離にある染井の顔が気恥しくて視線をそらして俯いたつもりだった。

俯く前に肩を組んでいた筈の腕に首を固定されて、そのまま唇を奪われた。
今日は少なくとも染井は酔っていない。

それなのに触れた染井の唇も、入ってきた舌も熱くて、夢中で絡む舌に応えた。


「酒臭い。」
「ゴメン。」
「あんな事した後なのに、吉野普通に飲んでるから。」
「酔っぱらったはずみでも、ほとんど覚えてなくても、俺は嬉しかったから。」

染井が俺の頬をそっと撫でた。

「俺は今度は酔ってじゃなくて、ちゃんと向き合いたかったから。
だから、酒は控えようって思ってただけで、後悔はしてないよ。」

染井に言われてもう一度「ゴメン。」と返した。

染井の指が俺の唇と撫でる。
思わず半開きになってしまった口元から染井の親指が入って来て口内を撫でる様に触れられる。

頬の内側を撫でられ、息をつめる。
半ば無意識に染井の親指に舌を這わせる。

「やっぱり、今日吉野相当酔ってるだろう。」

泣きそうな、それでいて瞳に情欲を宿らせた表情で言われ思わず唾を飲みこんだ。

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