おまけ
俺は、龍にアイスを奢るという約束を果たすために、龍と共に家からほど近い距離にあるカフェにいた。
ここのアイス(アイスプレートとも言う)は絶品で、俺と龍が昔からよく足を運んでいる店でもある。
アイスに何種類もあるソース――例えばキャラメルソース――の内、好きなソースを一つ掛け、周りには小さなドルチェが数種類、きめ細かく泡立てられた生クリーム……などなど、魅力的なアイス(アイスプレート)が俺達を待っているからだ。
値段は、まぁ……そこそこする。でも、普段お金を使わない俺にとってはそこまで苦ではなかった。
それから、年頃の男子達がアイスとか、なんて笑われるかもしれないが、俺と龍は昔から洋菓子系に目がないんだよ。
今より少し前にテーブルへと運ばれた紅茶を手に取る。品の良い香りが鼻孔をくすぐった。
緩慢な動作で一口含み、笑みを漏らした。
「…で」
「ん?」
「あの後どうしたんだよ」
「あ−…」
「俺に話せない事でもあるってのか?」
にやりとしながら言う幼馴染に一瞬声を詰まらせた後、俺は軽く肩をすくめて腰かけていたソファーに身を沈めた。
「お前に隠し事できるなんて思ってもないよ」
「そうそう」
「その笑みやめろ。むかつくから」
「はいはい」
笑みを引っ込めて紅茶を飲む幼馴染は到底中学生には見えない。
幼くない顔だちをしていること、そして制服ではなく品がよい私腹を着ていることも相まって、高校生から大学生の間に見える。
「真面目な話、ホントどうなんだ?」
「取り敢えずあれから日常生活で必要最低限の会話しかしてないな。それ以外は完璧に無視されている」
「うわーマジか……ご愁傷さん」
「これくらいの反動は覚悟していたつもりなんだけどさ、いざやられるとたまんなくて…どうしようって感じだよ…」
「お前、重度のブラコンだしな」
「おい」
「事実じゃないか」
「否定はしない」
「ほらな」
くっそ、腹立つコイツ。
と思いながらも、幼馴染の気遣いに心が和んだ。
「…麗」
「おう」
「俺だってよ、最初に言われた時ははなんて言うかその、驚いた?…いや違う。取り敢えず、漠然とした何かが心にきたっていうか…悪い、うまくまとめられんわ」
「それは悪かったと思っている。でも、お前なら解ってくれると思ったんだ。それに、実際一時間もしないうちに理解しただろ?俺はそれ以外に何も言ってないってのに」
「そりゃ長年幼馴染ってもんやってりゃあ、少しぐらいは、なぁ?」
「真太郎は無理だったみたいだがな」
「無理もねぇよ。アイツはまだ中学に上がったばっかだ。年より大人びているとは言っても、まだ解らないさ」
「そうだが」
兄弟だから、理解してもらいたかった、というのはダメか?
そう視線で問いかけると、龍は曖昧な笑みを顔に乗せた。
「…ほら、早く食べないとアイス溶けるぞ」
「お前も……て、いつの間に食べた」
「いつの間にか」
「けろりと言うなけろりと」
「ふはははは」
「紅茶代出さないぞ」
「それは困る」
龍は、意味をきちんと二重にとらえた後も(いや、後だからか)何度も俺に、いいのか?お前は本当にそれでいいのかと言った。
龍も、きっとどこかで認めなくない心がわずかでも潜んでいたのだろう。
そしてそのことを言えば、この幼馴染は躊躇いもせずに是と答えるのだろう。
だから問わない。
その後は、お互いの進路についての話をした。
最後、お勘定をして外へ出たところで龍は俺にぽつりと漏らした。
「なぁ、麗」
「ん?」
「真太郎は、解っていて解ってないんだよ。それも解ってるんだろ?」
「……」
「もう少しアイツが大人になったら……そうだな、俺達が高校最後の年を迎えるころに、今日の話してみろよ。きっと何かしら返ってくるからさ」
「…っあぁ」
それを言ったときの幼馴染の顔は酷く複雑に絡み合っていた。
三年後、俺は高校に入ってから一切の音信を絶っていた弟と、WCの準決勝戦で再会した。
後ろから、変わらぬ幼馴染の声がした。
(2014/01/17 更新)
重っ苦しい話ですんませんでした…orz
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