No Smoking


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「まじでお前、何してくれちゃってんのよ」
「そりゃあこっちの台詞じゃ……貴様その腑抜けた態度、いい加減にしちゃれよ。ここが誰の部屋だと思うとるんじゃ」
「んなことは過去の話、言っても仕方ないじゃないの。それよりなんて事してくれんのよ、ナマエちゃんの服燃やすってお前さァ……あれ新品なのによ……」

 ぶつくさ言い合いつつ部屋を片付けるお二人さん。結局仲がいいのか悪いのか……あれだな、犬猿ならぬ犬雉。なんとなくサカズキさんとボルサリーノさんは仲が良さそうだし。
 ちなみにわたしとしては、サカズキさんが制服を燃やしてくれたことでまた着ろと言われる可能性が減ったのは万々歳である。スカーフだけじゃなくて襟の方も焦げ付いていたので、今思うとまじで危なかったのだとは思うけど。

 ところで戻ってきたときのクザンさんといえばなんかものすごかった。焦りようがすごかった。サカズキさんとの会話で「わたしが死んだところで影響を受けるほどあの人たちはやわではない」みたいな事言ったけど撤回しなきゃならないかもってくらい心配されてしまった。ちょっとそれサカズキさんに失礼すぎるんではとヒヤヒヤした。それはもう背後が怖かった。

「ところで……ナマエちゃん、服燃やされた以外は何もなかったのか? おれが来たときにはなんだかんだ、普通に会話しているように見えたが……」
「ああ、それはわたしサカズキさんと約束したので」
「約束?」

 段ボール箱を手に持ったクザンさんが、棚を布巾で掃除するわたしを覗き込みつつ尋ねてくる。その箱の中身は一体なんなんだろう。あまり知りたくはない。

「命を賭けた約束です。わたしが悪いことをしたら、サカズキさんがキッチリ仕事するので、その代わりいい子のうちは大目に見てくれるっていう」
「? ……どういうことだ、ソリャ?」
「えーと、つまり……わたしの生命与奪権はサカズキさん持ちってことですね」

段ボール箱がものすごい音を立てて床に落っこちた。と思うと、いつの間にか移動したクザンさん、どこ吹く風のサカズキさんへ掴みかからんばかりに勢いよくまくし立てはじめる。

「ちょっとちょっとサカズキお前、一体何がどうしてそんな話になってんだ」
「貴様には関係なかろうが」
「ねェわけねェでしょ……つかなにナマエちゃんも平気な顔してんだ、これ大問題じゃねェの。知らねェのかもしれねェが、こいつはやるって言ったら本気でやるからな……?」

全くもう、クザンさんはわたしの保護者かなんかなのか。わたしにはもう厄介な暫定保護者が一人付いてるのでこれ以上増やしていただきたくないのだが。

「問題ないですよ、大体わたしが持ちかけた話ですし。あ、でもそうだサカズキさん、一つ言い忘れてたんですが」

 掃除の手を止めて大将お二人に向き直る。

「わたしの命を奪るときには、ちゃんとスモーカーさんに一言言っといてくださいね」

クザンさんがは? という顔をしてこっちを見るが、サカズキさんは特に意に介さず首を縦に振った。

「あァ……お前の保護の管轄は奴じゃったか……」
「はい、てかやっぱりそれ用の遺書は用意しとくべきでしょうか」
「自信満々なんじゃァ無かったんか」
「何事も用意周到なのが大事なんです」
「いやいや……ナマエちゃん、いくらなんでも……冗談にしちゃ笑えねェよ」
「冗談じゃないですよ。って、んん?」

拭き掃除を再開すると、ふと奥の方から漂って来たのは馴染みのある――なんて言いたくはないのだが――わたしの毛嫌いするあの匂い。

「……サカズキさんって、喫煙者ですか」
「あァ、もう長いこと吸っちょらんが……」
「ええ是非とも二度と吸わないでいただけると心の底から嬉しいです。ほんと匂い残るんで気をつけたほうがいいですよ。消臭するので、少し視界が曇りますがご容赦を」

制服のポケットに忍ばせておいた小瓶を取り出し、わたしはにっこりと口角を上げた。

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