No Smoking


▼ 07-4/4

「……そんなわけでわたし、クザンさんのとこで働くことと相成りました」

 ダイニングにてスモーカーさんと顔を突き合わせて夕飯をとりつつ、わたしはざっくばらんに本日の報告を行なっていた。灰皿の上に置かれた二つの葉巻は相変わらず嫌味ったらしく烟っており、わたしの食事を執拗に邪魔してくる。全くもって有害でしかない。
 ちなみに料理にまで手を回す余裕がなかったので、本日の夕飯は出前のピザである。この世界にもそういう概念はあるらしい。不思議だ。お味も悪くない。流石だ。デリバリーって凄い。

「……まァそりゃ構わねェんだが」

 そう呟くスモーカーさんは、例のごとく無愛想にメシを食っている。そういえば葉巻を咥えてないこの人って珍しいな。新鮮というか違和感だ。なんというかこう、顔からパーツが一個欠けてる感じがするし。勿論無いに越したことはないけどさ。

「こいつは一体どういうことだ、ナマエ」

スモーカーさんは目だけで部屋を見回して、非常に不満げな呻き声を上げた。なにがだ、と彼の視線を追うと、そこには剥き出しのフローリングと、カーテンが取り払われたので仕方なしに雨戸が閉められている窓と、カバーを剥がされた無残な姿のソファが。ありとあらゆる布製品を失った部屋はなんとなく物寂しいが、しかし我ながら仕事が早い。

「洗濯しました。今乾かしてるとこなんです。今日だけなので我慢してください」
「お前、家主になんの断りもなく……」
「今更なに言ってるんですか。わたしをこの家に上げた時点で、好き勝手することくらいわかってたでしょう」

伸びるチーズを落っことさないよう注意して、わたしはピザを噛みちぎる。スモーカーさんは慇懃無礼なわたしのセリフを聞いて何事か言いあぐねていたが、すぐに諦めたようなため息をつき、ピザの一片ををそのまま口に放り込んだ。

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