No Smoking


▼ 35-2/2

 ――さて、冒頭に翻って時は現在。

 わたしの太腿の間に挟まってる筋肉質な胴回り、伸ばした両手の先にある硬い胸板、そして目下には驚き顔のスモーカーさん。ああ……思わず目を逸らしたくなる現実だ。

 因みにここは彼の執務室である。現状に至るまでの経緯に軽く触れておくと、三大将に屈したわたしの最後の悪足掻き、それは――逃げの一手だった。なにせ賭けの条件はメイド服を着ることのみ。屁理屈を捏ねればとどのつまり、メイド姿になっても人に見られなきゃいいのだ。というわけで三大将を追い出してお着替えを済ませたわたしは、大胆にも窓から抜け出し、屋根伝いに廊下を回り込んで逃走し、暫くの間やり過ごすべくこの部屋に当たりをつけて転がり込んだわけだが……その際うっかり通りがかったスモーカーさんを巻き込んで、ご覧の通り押し倒してしまったわけである。

「お前……何を、何だって……?」

 スモーカーさんからすると、いきなりメイド服を着たわたしが乱入してきた上、文字通り尻に敷かれてご主人様呼ばわりされたというこの状況。さしもの彼も理解が追いつかないらしく、わたしに跨られた状態から起き上がる素振りも見せずに疑問符を浮かべるばかりだ。しかしわたしもまさか使用頻度の低いはずのこの部屋でドンピシャに鉢合わせするとは予想外、おかげ様でパニクった挙句ボルサリーノさんに言い付けられた罰ゲームに従うなどしてしまった。
 ああ、でもあれ、条件は「今日一日皆をご主人様呼び」なわけだしスモーカーさん相手にも守るべき……なのだろうか。そんな恥ずかしい真似できない。けどご主人さま呼びしなかったのがばれたら後で何言われるかわかんないし……よし、ここは極力スモーカーさんを呼称しない方向性でいこう。この人も混乱してるしさっきの発言は多分うやむやになってくれる筈だ。そうでなくては困る。

「――これは」

 と、わたしがご主人さま呼ぶだの呼ばないだのと逃避じみたことを考えている間、現状把握に努めていたらしいスモーカーさんは床に伏せていた片手を上げた。と同時に、彼の手に引っかかっていたエプロンドレスの裾がふわりと持ち上げられる。

「…….何の仮装だ?」

 スモーカーさんの視線がわたしの頭上に向いた。そこにあるのは恐らくひらひらのヘッドドレスだろう。猫耳を付けずに済んだのは不幸中の幸いだが――ああしかし、わたしはとにかくつらい。恥ずい。気まずい。涙腺が緩むのは顔面に直撃する煙のせいか、はたまた現状に対する羞恥心のせいか。写真の流出を案じてる間に、コスプレしてることを一番知られたくない相手に自ら暴露してしまっただなんて。

「う、これはその……メ、メイド……です」
「新しいアルバイトでも始めたのか」
「違います、これには色々と事情がありまして」
「……自分から着たわけか?」
「いえこれは別に好きこのんで着てるわけじゃなくてですね、どちらかというと着させられたというほうが適切で、うひゃ」

 いきおい腰を抱き寄せられて体勢を崩す。スモーカーさんが片肘をついて上半身を引き起こしたので、一瞬身体の前面が密着してしまった。慌てて身を引こうしたが、ちょうどスモーカーさんの膝と腕と上半身に挟まれて殆ど身動きが取れない。匂い移りとか以前にこれはいけない。わたしは慌てて身を捩った。

「ちょお、ス、ごしゅ……!じゃなくてええと、自分でどくので離……」
「写真」
「へ?」
「あの趣味の悪ィコスプレ写真だ。ついさっき部下から押収した。……これもその一環か? お前、おれの目の届かねェところで青キジの奴に何させられてんだ」
「……!」

 ば、ばれてるし。

 どうしよう、いよいよもって取り返しがつかなくなってきた。もう最悪だ。わたしのあの痴態を、よもやスモーカーさんに知られたのかと思うと恥ずかしすぎて死んでしまう。くそう全く、どうして隠し通してくれなかったんだ部下の方々め。けどこうなると、今のタイミングでスモーカーさんに遭遇しといていっそよかったのかもしれない。家に帰るなり素面の状態で尋問されるよりはいくらかましだろう。それでも針の筵状態には違いないけども。
 返す言葉も見つからず、だらだら冷や汗を垂らしながら無言を決め込むわたし。斜め下に視線を逸らせば、腰に添えられたスモーカーさんの手がエプロンの裾をくしゃりと握り潰しているのが目に入った。ひええ。

「ナマエ」

 突如冷えた革手袋の感触が頤に添えられ、ぐいっと顔を上げさせられる。ばっちりぶつかる視線。久しく見る恐ろしい形相に、思わず舌が縺れてしまった。

「へあ、は、はい?」
「お前、出会い頭に何か妙なことを言ってたな」
「は。……な、なんのことやら……」
「もういっぺん呼んでみろ。おれが誰なのか」
「そ、それは……その」

 え、な、なんなんだこの羞恥プレイ。一体何言わせようとしてんだこの男。というかここで誤魔化しても別に大将がたにはばれないだろうし、何のことやらと流したら済む話のような。いやでも約束は約束だから下手に破るのは……うう、自分の真面目さが恨めしい。大体スモーカーさん、わざわざ言わせなくても追求してくるってことはすでに察してるんじゃ……

「言え」
「ぐ……」

 なんだってわたしがこんな目に。クザンさんとかボルサリーノさん相手ならむしろなんの感情もなく呼べただろうが、よりによって相手はスモーカーさん。しかもこの格好と体勢と状況となると。しかしなんにせよ、既に一度呼んでしまった事実は変えられない。今更"白猟"の追求は免れないだろう。
 唾を飲む。さっさと観念するのが吉だぞわたし。頭がどくどく脈打って逆上せてしまいそうだ。スモーカーさんの手が喉に当たってる。耳が火照る。焦れたような眼差しがわたしを見てる――


「っご、……ご主人、さま……」


 もうどうとでもなれ、と喉の奥から絞り出した。

 その瞬間。

 スモーカーさんは雷に打たれたような顔をした。さながら脳天を撃ち抜かれた鴨、全てを知ってしまった猫――見たこともない表情だった。なんだこの反応、一周回ってこっちがびっくりだ。わたしの顎を持ち上げてる腕、よく見たらすごい鳥肌立ってるし……。それほどに気色悪かったのだろうか。ボルサリーノさんの趣味の悪さには同意見だけど、ここまで引かれるとちょっと傷つくぞ。
 などと内心ダメージを受けていると、スモーカーさんはやおらわたしを畳張りの床に下ろし。無言のまま膝を突いて腰を上げ。やけに緩慢な動作で、先ほどわたしが叩き開けて閉めた襖に手をかけた。……って、えっ。

「ど、どこ行く気ですか!?」
「青キジを探す。止めるなよ、一発ぶん殴ってやらねェとおれの気が済まねェ」
「ちょ、待ってください、行かないでください、全部説明しますから! そもそもこのアホな罰ゲーム考えたのはボルサリーノさんの方で――」
「あァ……!?」

 開きかけた戸から手を離し、意表を突かれたように振り返るスモーカーさん。当然というかなんというか、まさか大将がもう1人関わっていたとは想定外だったらしい。本当は三人というのが非情な現実だ。わたしはドレスの裾を払いつつ腰を上げた。

「と、……とにかく! これには本当に色々な事情が絡んでまして、単にクザンさんをしばいて済む問題じゃないんですよ。誤解もあるようですし、スモー……んんッ、とにかく話を聞いてくれませんか」
「……」

 スモーカーさんは暫し逡巡すると、ややあってどこか諦めたような顔をした。どうやらわたしの懇願に折れてくれたらしい。彼はわたしに向き直ると、がしがし頭を掻きながらため息混じりの煙を吐き、

「……事情ってのを聞かせろ」

と、渋い声色で呟くのだった。

 はあ……何はともあれ、ようやく落ち着いて話が出来そうだ。



「――というわけです」

 かくかくしかじかの事情を話し終え、ざっくりと話を締め括る。制服を作るに至った理由や脈絡なく飛び出したコスプレ衣装、それを着ざるを得なくなったタチの悪いハメ技などについてくだくだと語ったわけであるが、その間スモーカーさんときたらずっと死んだ魚のような目をしていた。特にサカズキさんが登場したくだりは酷いものだった。そして今はちょうど、わたしが三大将との勝負に負けてボルサリーノさんによる罰ゲームを負った……というところまでお伝えし終えている。

「海軍本部の最高戦力も落ちぶれたもんだな……」

 とは、頭痛を堪えきれない様子のスモーカーさんの言。本来咎められるべき発言だが、困ったことに返す言葉もない。肩を竦めつつ、先ほど座らされたでかい回転椅子から執務机に腰を引っかけたスモーカーさんを見上げてみる。彼は腕を組んだまま、天井を見上げてぷかぷかと煙を吐いた。

「お前もお前だ。禁煙だの消臭だのが絡むと普段あれだけ頑固なくせに、何で情に訴えられると弱ェんだ。その上今回は下らんモンに釣られやがって」
「くだんなくはないです。わたしは本気で欲しかったんですから。そりゃ結果を見れば賭けには負けましたけど、途中までは結構いい勝負してたんですよ」
「んなふざけた条件を承諾してる時点で賭けになってねェだろうが。てめェは馬鹿なのか」
「誰がばかですか。スむっ……ご、主じ……さまだけには言われたくないです」
「止めろ、次その呼び方したら燻すぞ」

 冷ややかな視線を下さるスモーカーさん。なんか懐かしい感じだなあ。と我ながら悠長な考えが浮かぶ。ほら最近この人優しすぎる節あるし。

「で……何の勝負を仕掛けたんだ、お前は」
「絵しりとりです」
「絵し……そりゃァまた、なんで?」
「わたし絵しりとり結構強いんです。ていうかいつもわたしの次の人が読解力低いんですよね。サカズキさんとクザンさんはそれで脱落しましたし」
「……あァ、……なるほど」
「なんですか今の間は」
「お前の絵は独創性がな……。――! ナマエ」

 雑談の最中、またしても唐突に腕を掴まれ、椅子から引き摺り下ろされ、そのまま畳の床に転がされた。「どわ!?」と叫ぶわたしに対し、飛んでくるのは静かにしろとの一喝。いきなり人をすっ転ばせといてなにをぬかすか、と文句を言う間もなく執務机の下に無理やり押し込まれてしまった。いやまじでなにをする。ぎゅうぎゅう詰め込まれたメイド服はまるで緩衝材の如しだ。そして椅子に腰掛けたスモーカーさんの編み上げブーツに出口を塞がれた、次の瞬間――

「よおスモーカー、ちょっといいか?」

 襖の開く音、と同時に聞こえたのは、先ほど散々私をいじめてくれたおっさん――クザンさんの声。

 げ、やっぱ探されてたのか。するとスモーカーさんによる突然の暴挙は、これを察知してのものだったらしい。ううむ、仕方ないから説明もなく机の下に詰め込まれたことは水に流して差し上げるが……ところでスモーカーさん、少し前までクザンさんに対して怒り心頭だった気がするのだが、まさか掴みかかったりはしないだろうな。というわたしの心配をよそに、頭上から聞こえたのは思いのほか冷静な声色だった。

「多忙な大将殿がわざわざご苦労なことで。用件はなんだ」
「あらら……ずいぶん冷てェじゃない。つうかお前が上に居んのも珍しいだろ……何かあったのか?」
「質問を返すんじゃねェ。先にアンタが答えろ」
「あらら……お前さん、今日はやけに機嫌悪ィな」
「おれァ見ての通り仕事中なんでな」

 上司に向けるものとは思えない不遜な態度である。しかしスモーカーさん、わたしを股下に隠してるこの状況でも何食わぬ顔で振る舞えるのは流石だ。

「まあまあそう急かすな。実はちょっと探し物してんのよ。気付いたらどっか行っちまったんだが……もしかするとここにあるんじゃねェかと思ってな」

 ぎく。

 どう考えてもわたしのことだ。衣擦れの音がしないよう身を縮め、極力静かに息を吸い、そしてスモーカーさんのでかい足を睨みながら息を止める。わたしが二日ほど前に磨いたぴかぴかの革靴。その靴先は苛立ち紛れに床を叩いた。

「なんでおれの執務室にあると思ったのか理解に苦しむぜ。その探し物とやらは勝手に歩き回るのか?」
「んん……まァそうだな、違いねェ」
「悪ィが覚えがねェ。他を当たれ」
「……確かに、お前さんの態度を見る限りじゃどうも当てが外れたみてェだな。邪魔して悪かった……あ、それとついでに聞いておきたいことがあんだけどよ」
「なんだ」
「ほらスモーカー、お前ってナマエちゃんにベタ惚れ……つうかそういう目で見てるだろ。参考までに聞きてェんだが、あの子に着て欲しい服ってなんかあるか? あ、好みのシチュエーションとかでもいいんだけどよ」

 ああ、……クザンさんって、やっぱり大ばか者なのかもしれない。なんでこう、わざわざ煽るようなこと言うかなあ。わたしはスモーカーさんの怒声に備えて耳を覆った――のだが。

「は……」

 聞こえたのは僅かに震えた語尾。そして続く無言。

 ん、 あれ、スモーカーさん、まさか動揺してるのか……? クザンさんが冗談めかしてセクハラかましてくるのなんて別に珍しいことじゃないのに……そりゃかなりデリカシーがないというか、的外れな発言ではあったけど。ていうか、もしかしなくてもわたしがいるから気にしてんだろうか。はは、図星ってわけじゃあるまいし、クザンさんの言うことなんて真に受けたりしないから安心して頂きたいものだ。

「んん? どうした……まさかおれが気付いてないと思ってたわけじゃねえでしょ。こないだ海行った時はナマエちゃんが来たから聞きそびれたが、お前が本気なのは分かってる……。にしてもなんだ、コスプレは趣味じゃねェのか? でもほら、考えてもみろよ……学生服姿のナマエちゃんに『先生♥』とか呼ばれたらグッとくるだろ。惚れた女にそんなこと言われちゃ、おれなら――」
「黙れ」

 ガタンと揺れる机。うわびっくりした。クザンさんの発言を半笑いで聞いてたところにいきなり立ち上がるもんだから……危うく声が出るとこだ。

「ちょ、落ち着きなさいよスモーカー……怒らせるようなこたァ言ってねェだろ。おれは別に、お前さんの大事なナマエちゃん相手にそういう妄想してるわけじゃ……」
「それ以上口を開くな。アンタを黙らせられねェならおれからも追求させてもらうが」

 バサバサと紙束をひっくり返す音が聞こえた。続けざまにあぶれた紙切れが数枚、わたしの足元まで落ちてくる。あ、これさっき押収したって言ってたわたしの恥ずかしコスプレ写真……ということは。

「この写真に見覚えは?」

 ハッタリだ。スモーカーさんてば、もう全部分かってるくせに素知らぬ顔しちゃって……案の定、クザンさんは怖気付いたように言葉を濁した。

「あららら……お前さん、それをどこで……」
「探し物つったな。ナマエは今どこに居る?」
「あー、と……お、そういや急用を思い出した。こりゃまずいな、つうわけであと気になるならナマエちゃんに聞いてくれ……じゃ!」

 効果はてきめんだったらしい。クザンさんはいつになく早口に言い繕い、間を置かずバタバタ足音が遠ざかっていった。てか今ちゃっかりわたしに丸投げしたよなあのおっさん。わたしが説明し終えたあとだからいいものの、この後尋問されてた可能性を考えるとほんと悪質だぞ実際……。


「――ナマエ」

 椅子を引いて屈んだスモーカーさんが、落ちた写真を拾い上げつつこちらを覗き込んだ。

「もう行きました?」
「……あァ」
「ふう、やれやれです。それにしてもスモーカーさん、知らんぷりが上手いですね」
「まァ……な。それよりナマエ、青キジがぬかしてたあれは……」
「ああ大丈夫ですよ、クザンさんがスケベなのはいつものことですから。何一つ的を射てませんでしたけど、まさかクザンさんだって本気で勘違いしてるわけじゃないでしょうし」

 と笑いつつ、のそのそ机の下から這い出す。スモーカーさんは安心したように見えてしかしどこか複雑そうな顔をしていたが、わたしが裾を踏んでよろめくなり手を引いて立たせてくれた。椅子に腰掛けた彼と、ちょうど同じくらいの視線の高さになる。

「ありがとうございます。……それとその写真、ちゃんと処分しといて下さいね」
「回収できた分はな。……だがナマエ、お前この先制服の件はどうするつもりだ? 青キジのあの様子じゃまた同じ目に合うぞ」
「いやほんとにそうなんですよね……。その、だめもとで聞くんですけど、スモーカーさんなにかいい案ありませんか? 一応わたしも前々から制服の必要性は感じてるんですが」

 スモーカーさんは暫し、顎に手を当てて考え込んだ。色々と筒抜けになってしまった今となっては、一番まともかつセンスの良いスモーカーさんに頼るのが一番である。流石に大将と制服作りを、とは頼めないので、意見だけでも聞いておきたいところだ。
 とそこで、何か思い至ったらしくつと顔を上げるスモーカーさん。彼はちらりとわたしのメイド服を流し見て、もう一度わたしの顔の中心に視線を定めた。

「要は……一目で海軍の関係者ってのが分かりゃいいんだろう」
「そうですね。けど下級兵に間違えられても良くないので差別化したい感じです」
「分かった」

 スモーカーさんは間髪入れずに立ち上がった。慌てて視線で追いかけるなり、軽く背に手を当てられる。

「……行くぞ。着いてこい」
「え、どこにですか?」
「支給部だ」

 なぜに支給部なのだろうか。と、問う暇もなく背中を押されて歩き出させられてしまった。相変わらずの説明不足だが……けどまあ、スモーカーさんなら任せても大丈夫だろう。わたしは最初からこうしとけばよかったのかもなあ、と今更なことを考えつつ、スモーカーさんと連れ立って廊下を進み始めたのだった。



 ――さて。支給部でスモーカーさんが要求したのは、海兵服のスカーフだった。それも、染色に失敗した不良品。スモーカーさん曰く、この失敗作は船の帆なんかに再利用されるそうで、大抵は破棄されずに保管されているのだとか。彼の思惑通り、支給部所属の方が取り出してきてくれたのはまだら模様の布の山。そこからスモーカーさんは比較的むらのない――青というよりは碧に近い――鮮やかな色を選び取り、支給部の方に海軍マークと「保護対象」の刺繍を入れるように指示を出した。
 というわけで、わたしの手元に渡ったのは綺麗な碧色のスカーフが一枚。今後本部内ではこれをどっかに巻いとけば良いという話である。制服というには味気ないが、効率主義のスモーカーさんらしいシンプルさ。かくいうわたしとしても、本部の行き帰りで買い物とかする機会が多いわけで、着脱しやすいのは願ったり叶ったりだった。なんとなくスモーカーさんのジャケットの緑色とも似てるので――それを指摘するとスモーカーさんにはそうでもねェよと否定されたが――その点も気に入ったわたしである。しかしこれまでの苦労は一体なんだったのか。スモーカーさんの手に掛かった途端、本当にあっさり片付いてしまった。

 そうしてその日はスモーカーさんの協力あって無事、三大将に遭遇することなくやり過ごし――。

 後日、メイド服を突き返すついでに「もう制服は必要ないです」と告げられたクザンさんが絶望によりボイコットしたり。罰ゲームから逃げたことについてボルサリーノさんに遠回しな文句言われたり。ちょっと残念そうなサカズキさんと顔を合わせたり。更には抜け目なくわたしのメイド姿を撮影してたらしい炎のアタッチ氏によるブロマイド配布が行われたり。それで元気を取り戻したクザンさんに"匂貝"を譲ってもらったり。そして最後にスモーカー大佐がメイドを連れ回してたという噂が流れたり――と、色々あったものの、ともあれ制服騒動は無事収束。これ以降、わたしの本部でのチャームポイントは、でかでかと『保護』の刺繍が施された碧色のスカーフになったのであった。

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