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『それで、本当に何か御用があったのですか?それともないのですか?ないなら私、皆のところに戻りたいんですけど』
「それより、キミなんて名前なの?教えて?」
『……榊原結衣と申します』
「あ、オレ高尾和成って言うの!よろしく〜、ついでにケー番とメアド教えて〜」
『……手元に、携帯ないので…』
「そうなの?じゃあ、紙に書いて渡しとくから今日中に連絡頂戴ね」

どうしよう、私この人についていけない。どうしよう!!

「うるさいのだよ、高尾!」
「いいじゃん!可愛い女の子には声かけとかなきゃ損でしょ!?」
「なんなのだよそのポリシーは!?いいから、静かにしているのだよ!!」

……ああ、今だけ頼もしく見えます、緑間さん…。
しかし、高尾といわれた人は緑間さんの言葉など気にしていないようで、さらさらと自分の番号とアドレスを書いて私の手に握らせた。
……この場で破り捨てたいけど、これは個人情報。抑えなければ。

「あ、ちなみに今日連絡くれなかったら誠凛に通いつめるから覚悟しといて」
『…………』

完全に逃げ道をふさがれた。

『……緑間さんはどうしてここに?』

話をかえようと思い、もう高尾君の存在を消そうと心に決めた。

「誠凛の相手校の外国人留学生を見に来たのだよ」
『あ、そうなんですか』

簡単に受け流して、ここはさっさと退散するが吉だと思う。だから、これ以上話しを膨らませないでください。
なんていう私の願いは高尾君にいともあっさりと崩された。

「誠凛を見に来た、の間違いじゃない?」
「…黙るのだよ、高尾」
「同中の子見に来たんでしょ?」
「違うと何度いったら分かるのだよ」
「隣で見てたら誰でもわかるぐらい見てたじゃん!」

……テツヤ君のことを観察…偵察?しに来たってことなのかな?
しかし、私はこのままではキセキの世代にどんどん出会ってしまう。逃げたいなぁ…。
キセキの世代じゃなくてもその周りにいる人たちはそこそこキャラが濃いと認識しているのに。
……そういえば、私この世界にトリップしちゃってから走るの凄い早くなったんじゃなかったっけ?走って逃げれば万事解決?

思った瞬間に実行したくなった私は、早速軽く走ってみた。
が。

「何してるの?」
『あれっ!?』

いとも簡単に高尾君に捕まりました。
あの時は極限状態だったからか?そんなにも黄瀬君から逃げたかったんだな、私!
そして、世界は甘くありませんでしたね。脚が早くなったというのは物凄く気のせいだったようです。耳がいいのは気のせいじゃないみたいだけど。

『……運動不足なので、軽く走ってみようかと』

言い訳にならない誤魔化しを口にして、私は高尾君を誤魔化そうとしたら、思い切り笑われた。
そして、ひょいっと抱き上げられた。

『きゃあっ!?何々!?や、高いから!下ろして!!』
「こーん何も細いんだからむしろ体重増やしたら?」
『いや、今の重さも十分重いんで……』
「こんなにも軽々と抱き上げることが出来るんだからもうちょっと食べたほうがいいんじゃない?」
『た、高尾君には乙女の悩みは分からないよ!』
「あ、やっと名前呼んでくれた」
『そのためにここまでやったの!?』
「いや、そういう意味でやったわけじゃないよ。そのままにしといたらなんか全力で逃げられるような気がしたから。ま、俺から逃げられると思わないでよね」
『こ、怖い……』
「高尾……、いい加減にするのだよ」

緑間さんのその一言で、私は無事地面に下ろしてもらえた。いまどきの男子高校生はこんなにも身長があるものなんだろうか。恐いわ。

「ま、公式戦で上がってこられたらまた合えるはずだし。がんばってね」
「勝てたらの話しだがな」
『…緑間さんの嫌味、本当に嫌い。誠凛は勝ちます!』
「結果で示して見せろ」
『ええ、必ず』

にらみ合って、私たちはお互いに背を向けた。高尾君が「連絡待ってるから〜」、といっているのを背後に、私は会場へと戻っていった。



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