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「(いや、すごいってのは知ってたケド…なんか、黄瀬君とやってから一段とパワーアップしたような……)」
その時、私は黄瀬君の言葉を思い出してしまった。
――「いつか必ず「キセキの世代」と同格に成長してチームから浮いた存在になる。その時アイツは、今と変わらないでいられるんスかね?」
思わず、私の隣に座っていたテツヤ君のユニフォームを掴んでしまった。
少し驚いたように私のほうを見たテツヤ君だったけれど、私の表情を見てから、優しく頭に手を置いてくれた。
「大丈夫ですよ、結衣さん。火神君なら、きっと」
その時、会場がわっと盛り上がった。
「新協学園3P来たぁ!!」
「一ケタ!まだわかんねーぞ!!」
はっとしたようにリコ先輩がテツヤ君を見た。
「黒子君!ラスト5分行ける!?」
「…むしろ結構前からいけましたけど…」
「ゴメン!じゃあゴー!!」
テツヤ君はコートに入る前に私に微かに微笑んでからコートに戻っていった。
後もう5分…私は会場の熱気から少し逃げようと考えて、リコ先輩に一言声をかけてから会場を後にした。
『んー、外はやっぱり涼しい……』
先ほどまで自分の身を包んでいた熱気をかぜで取り除くようにして、私は外をうろうろとで歩き始めた。
そして、見てはいけないものを見てしまった。
『……………………おう』
見覚えのある自転車だ。そして見覚えのある髪色だ。逃げたい。
というか、私には全くの他人なんだから声をかけられること自体ありえてはならない。うん、そうに決まっている。だから早く会場に戻ろう。
そろそろ試合が終わっていてもおかしくないんだから。
自分に言い聞かせてくるりと背を向けて会場に戻ろうとすると、後ろから声をかけられた。
「おい」
『!?』
何故。
あなたは。
私に声をかけた!!
「そこの誠凛のジャージを着ている女」
『……』
もっと違う呼び方が…ないか。私はこの人たちに名乗っていないもんね。うん。
「貴様、誠凛のマネージャーだろう」
「え!?誠凛ってマネージャーいんの!?」
「海常の練習試合のときに俺も知ったのだよ」
『……えっと、何か御用でしょうか?』
だめだ、早く解放してもらおう。
そう思って、私から声をかけてみた。
「用がなければ声をかけてはいけないというのか?」
『……顔見知り程度の私に声をかけるならそれ相応の理由があったほうがいいと思いますが』
「何々!?真ちゃん嫌われてるの!?」
黒髪の男の子がめちゃくちゃ爆笑している。この状況どうしてくれよう。
考えても、私の中に答えは出なかった。
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