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……はい。説明するまでもなく、圧勝です。てか、瞬殺ですね。凄い。
まるで、小学生と試合してるみたいな。……この人たちと一緒にされたくない。

そして。
火神君からのお説教が始まった。

「お前らは!!何を考えてんだよ!!あのままけんかになったりとか、結衣!お前に関してはもっと危なかったんだぞ!?」
『う、はい。……ごめんなさい』
「黒子!お前もだよ!!けんかになったらどうするつもりだったんだよ!勝つ気だったのか!?」
「いや、100%ボコボコにされてました。見てください、この力コブ」
「テメ…ッ!!」
「黒子っちってたまに凄いよねー」

黄瀬君が力なくそう言った。
……私から見てもあるとは思えない力こぶを見せながら、テツヤ君は断言した。
勝てないと。
自信満々に勝てない宣言するテツヤ君もある意味ではかっこいいと思う。
そんなことを思っていると、テツヤ君は少しすねたようにほほをぷくっと小さく膨らませていったのだ。

「それでもあの人たちはひどいと思いました。だから言っただけです」
『そうだよ!テツヤ君の言うとおりだよ!』
「お前は!もう少し女としての自覚を持て!傷でも作ったら嫁にもらってもらえねぇぞ!」

火神君……そんなはっきり言う?さすがに私でもそれは傷つくんだけどなぁ。
と、そんなことを思っていると、黄瀬君が横から発言してきた。

「大丈夫!もしそうなったとしても、オレがちゃんと結衣っちをもらうっスから!」
『あ、間に合ってるんで大丈夫です。余計なことは言わないで下さい』
「間に合ってるって何!?っていうか、皆オレに対する扱いが酷すぎるっ!!」
『日ごろの行いでしょ』
「めっちゃいい子っすよ、オレ!!」
『ヘーソウナンダー』
「棒読み止めてっ!!」

そんなくだらないことを私たちが言い合っている隣では、テツヤ君と火神君も言い合っていた。
それに気付いた黄瀬君は少し驚いたような表情で彼らを見た後、なんだかちょっとだけすっきりしたような、でも悔しそうな表情をしてから、放り投げてあった自分のエナメルを手に取った。

「じゃっ、オレはそろそろ行くっスわ。最後に黒子っちと一緒にプレーも出来たしね!」

すがすがしい、作っていない、モデルではない、そこには普通の高校生の表情をした“黄瀬良太”がいた。
その姿は、いっまで見た中で私が一番好きな彼の姿だった。

と、すたすたと歩いている背中を三人で見送っていると、黄瀬君は急に後ろを振り返り、大声で言い放った。

「あ、結衣っち!オレ諦めてないっスから!それと、火神っちにもリベンジ忘れてねっスよ!予選で負けんなよ!」
『何言ってるのあの顔だけモデルは!?』
「火神っち!?」
「結衣さん、さすがにモデルの人目の前にそれは言わないほうがいいと思います。それと、黄瀬君は認めた人には『っち』をつけます。良かったですね」
『知らない間にお気に入りにされた!もっと可愛い子をみつくろいなよ!!』
「やだけど!!」

手をぶんぶんと振っている姿はまるで本当に大型犬のようである。いらんことばっかり言いよってからに……。
他校の子からいじめ的なことがあったら全部あいつのせいにして警察に届出を出してやる。心に誓った。
その時後ろからリコ先輩の声が聞えてきた。戻らないとやばい気がする。

二人を振り向くと、すでに準備を始めていたので、私は待つことにした。

その時、テツヤ君が火神君に対して、質問を投げかけた。

「火神君、ひとつだけ聞かせてください。あの話聞いてましたか?」

それを、少しだけ離れたところで聞いている私。そのことを確認してから、火神君はため息をつきながら言葉を紡いだ。

「決別するとかしないとかか?てゆーか、それ以前にオレ、別にお前と気ィ合ってねぇーし。
一人じゃ無理だって言ったのはおめーだろ。だったら、いらねー心配すんな。
…それに、いつも主役(光)とともにある。それが黒子(おまえ)のバスケだろ」

少し驚いているテツヤ君の表情が見えた。火神君は、直感的に自分に正直に生きているから、知らない間にこんなにも温かい言葉をかけられるんだなって。
私は感じた。

それはおそらく、テツヤ君も同じだと思う。

「火神君もけっこう……言いますね」
「うるせーよ!」

そんなほのぼのとした会話を少しだけしてから、私たちは皆のところに戻って言った。


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