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一瞬、周りが静かだった。けれど、次の瞬間――
「うわぁあぁあああ!!誠凛が!?勝ったぁああ!!」
空気を振るわせるほどの歓声が体育館中を包み込んだ。
その歓声に、私とリコ先輩はとても安心し、コート上で日向先輩が、
「嬉いを通り越して信じらんねー」
と呟いているのを、私の耳は拾い上げた。
「うおっ…しゃあぁあ―――っ!!」
火神君がとても嬉しそうな声を上げ、テツヤ君も声にはでないけれど、とても嬉しそうな表情をしていた。
海常の人たちはもちろん負けているわけだから、何も言わずにたって、勝者の歓声を聞いている。
そんな中で黄瀬君は本当に呆然としていた。まるで、現実が分からないとでも言うように。
「負け…たんスか?」
呆然と呟かれたその言葉に続いて、彼に瞳からは涙が流れた。
そのことに本人も驚いていて、しきりに拭いながらあれ、あれ、と呟いている。
……敗北を知らなかった人間は、その敗北を知ると、こうなってしまうのかと、私は本気で考えてしまった。
ギャラリーからは、少し信じられないというような声が上がっている。
「黄瀬泣いてねぇ?」
「いや、悔しいのは分かっけど…練習試合だろ、たかが…」
何も知らない人たちには、やはりそう映ってしまう。
だから、そんなところで泣かないほうがいいといいたい気分だけれど、ここは我慢するしかない。
後で、多分時間も取れると思うし。
そんなことを思っていると、笠松先輩が黄瀬君に蹴りを入れていた。
「っのボケ、メソメソしてんじゃねーよ!!つーか、今まで負けたことがねって方がナメてんだよ!!シバくぞ!!そのスッカスカの辞書に〈リベンジ〉って単語追加しとけ!」
そう言って、練習試合終了するため、お互いの学校がコートの真ん中で整列する。
「整列!!100対98で誠凛高校の勝ち!!」
「――ありがとうございましたっ!!!」
そして、練習試合から引き返すため、私たちは準備をして、体育館の前まで見送ってもらっている。
リコ先輩の満面の笑みと、海常の監督の悔しそうなこの表情。対照的過ぎてどう反応していいのか、ちょっとよくわからない。
そういえば、黄瀬君が見当たらない。……まあ、多分落ち込んでるんだろうけど。ちょっと探しに言ってみるか。
そう思って、私はフラーっとみんなの輪の中から抜け出す。
てくてくと歩き始めた。
しばらく歩き続けた。
『……れ?』
先に言いたい。決して、決して迷子になったわけではないよ。
この学校の敷地が広すぎるんだよ!!そうだよ!!だから、私が道わからなくなるのは仕方がない!!
…自分で迷子と認めてるじゃん、混乱しすぎだよ私。
いやいや。そんなことをのんきに言っている場合ではないし。
早く探して、姿を見て、皆のところに戻らないと、リコ先輩にシバかれる……っ!!
その時、遠くからざーっという水を流す音が聞こえた。
『…ん?もしかして黄瀬君…?ってか、ここからだと頭下げすぎてて見えないし、もうちょっと近づいてみるべきか……』
ぶつぶつと呟きながら、私はちょっとずつ近づいてみた。
そして、後悔した。
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