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ふらっと足元顔没いていないのにテツヤくんがコートに向かって歩いていく。
わたしはその前に出た。リコ先輩も、私と同じタイミングでテツヤくんの前に立つ。

『何言ってるの、テツヤくん!!怪我人でしょ!そもそも、ふらついてるじゃない!!』
「?でも結衣さん、今カントクが行けって」
「言ってない!たらればがもれただけ!!」
「じゃ、でます」
『テツヤくん!!』
「いいんです結衣さん。それに、ボクがでて戦況が変えられるならお願いします。…それに、約束しました。火神君の影になると」

ソレは、とても強い言葉で、周りを黙らせる一言となった。

「分かったわ…!」
『!リコ先輩…!?』
「ただし!ちょっとでも危ないと思ったらスグ交代します」
『テツヤくん…、リコ先輩…!!』

納得のいかないこの状況のまま、テツヤくんは交代してコート上に立った。


**


がらがらがらがら、と道路上で音がした。その音のしたほうを見ると、そこには異様な光景が広がっていた。

「くっそー!信号待ちで交代ジャンケンなのに…お前まだ一回もこいでなくね?」

自転車にロープで括りつけたリアカー。
そして、自転車を漕いでいる一人の青年と、荷台部分に乗っている青年が一人。
この光景は異様といえよう。

「そんなの…当然なのだよ。なぜなら今日のおは朝の星座占いオレのかに座は一意だったのだから」
「関係あんのそれ!?」

見事な突っ込みをしながらも、彼は必死に自転車をこいでいる。

「つーか、わざわざ練習試合なんか見る位だから相当デキんだろうなお前の同中!?」
「マネッ子と…カゲ薄い子だね」
「それ強いの!?」
「それより早く!試合が終わってしまう!多分もう第4Qなのだよ!」
「オマエが占いなんか見てたからだろうが!」

そういいながらも、青年は必死に自転車をこいでいた。


**


……試合は、最初の状況に戻っていた。それもそうだよね。だって、テツヤくんは第2・3とまるっとしあいにでていなかったんだから、影の薄さは戻りますとも。

「うおお、マジか!?差が詰まってる…!?」

その間にパスは目にも止まらぬ速さで、掛け声をかけながら、かけられながら、どんどん試合は進んでいく。
日向先輩に、パスが回り、そして――入れた。

「…同点っ!?」

その一言が、体育館中に響く。

『……みんな…』

この後の結果を、なんとなく思い出す。それは、先を知っているという表現がぴったりで、なんだかいたたまれなくなった。
けど、そんな時、コートの中では異変が起きていた。

『(……黄瀬君……)』

今まではテツヤくんと火神くんとで協力して何とか止めていた黄瀬君だったけれど、その瞬間から、彼を止められなくなった。
それは、黄瀬君の意地だったのかなって、私は思う。
だって、私はその場にいたわけでも、ましてこの世界の住人でもないから分からないけれど、あの帝光中に居たんだったら、勝つことが当たり前の世界にいたんだったら、もちろん、この状況を甘受することなんて――出来るはずが、ない。

「オレは負けねぇスよ。誰にも。黒子っちにも」



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