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――side海常――
「何だこのていたらくは、お前ら!!」
びりびりとするその怒鳴り声に、足が止まってしまった。
ああ、来なければ良かった。
「何点とられりゃ気が済むんだ、DF寝てんのか!?オイ!」
……おおう、これ、私がそこに行ったらやばいのでは?
とか思って方向転換しようとしたら、思いっきりイケメンさんに名前を呼ばれてしまう。
「結衣ちゃーん!」
『!!』
やめよう!今ここで私の名前を呼ぶのは止めよう!!
と思うが、私の心の叫びなど分かってもらえるはずもなく。
「あ!?なんで誠凛の人間がこんなところにいるんだ!?」
『あ、いや。お邪魔でしたらソッコーで、本当にソッコーで帰りますんで!!』
「当たり前だろ!!とっとと戻れ!!」
『監督さん!ありがとうございま――』
「あー、かんとくー、オレが呼んだんで大丈夫スよー」
『何が大丈夫なのか分からない!!私の平和を乱さないで!!ていうか、私このまま帰れば平和になれるの!ほら、海常の皆さんだって不思議がってるし!!』
当たり前のこの状況を何故私が説明しなければならないのか。
「まーまー、いいから。ほら、オレの膝においで」
『……笠松先輩』
「俺かよ!?」
『常識持っている人!!そこの人、一発殴ってもいいともいますよね!?』
「あ、ああ……」
……何故私を見てくれないんだこの人!?
「もー、笠松先輩は女の子が苦手だからだめっスよー?」
わたしはじりじりと後退していたはずなのに、イケメンさんが一歩踏み出して手を伸ばしただけで腕をつかまれ、気付いたら彼に抱き締められるような格好になっていた。
私、今叫んだら勝てる。セクハラと叫んだら私絶対に勝てる!!
でも出来ない。何故って?そりゃ、海常の監督様が怖いからですよ。
もう、何もいえません。
そして、海常の人たちは私がイケメンさんの膝の間にいるのをもうお構いなしに、話を始める。
「つっても、あの一年コンビはヤベーぞ。実際。10番はお前が抑えてるからいいとして…なんなんだ。あの異常にウッスい透明少年は…」
『(10番って、火神君?透明少年はテツヤくんだよね……)』
「あー…結衣ちゃんやわらかーい」
『汗臭いっ!っていうか、セクハラって叫びますよ!?』
「汗臭いってヒドッ!でも、叫んでも、俺の勝ちっスよ!」
『どこからそんな自信が湧いてくるのかわからないけど、とりあえず、笠松先輩の話聞いてようよ!なんで私ここにいるのかわらないけど!』
「……てめー、名前は?」
『ひっ!ごめんなさい!やっぱりここにいても邪魔ですよね知ってます!?でも、この人離してくれないんです!!』
「いや、だから名前」
『榊原結衣と申します!!』
「そうか。じゃ、結衣と呼ばせてもらうぜ。そして、黄瀬を殴っていい」
『まじっすか!?』
「おお、許可する」
『ありがとうございます!!さすが、笠松先輩!』
よくわからない友情が出来ました。
まあ、そんなことはおいておくとしよう。本題を進めてください。しばらく黙ります。相変わらず、イケメンさんには抱き締められたままですが。
「で?何の話でしたっけ?」
「本気で殴るぞ。あの透明少年のことだよ!!」
「ああ!黒子っち!凄いでしょ?実は…」
「なんで嬉しそうなんだてめー」
肩パン一発。そのままその振動が伝わってくる。
結構強い力でした。しかしイケメンさん、さすがいい身体してますよね。はい。筋肉素敵です。
……言っておきますが、決して変態ではありません。
「だ、大丈夫っスよたぶん。すぐにこの均衡は崩れますよ…………なぜなら」
ああ、また、選手の顔だ。
「―――――彼には、弱点がある」
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