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「何?結局前面使うの?」
「ゴールぶっ壊した奴がいるんだってよ!」
「はあ?……うお!マジだよ!!」
してやったり顔の火神くんはとっても満足そうだ。
うんうん、いいことしたと思うよ火神くんは!
……しかし、私はもう一つ、気になってしょうがないことがある。それは、テツヤくんの表情を見ても、私と同じことを思っているかもしれないと、私は考える!
皆、エナメルのバッグを各々持ちながら、移動をしている。
その時、火神くんはイケメンさんに声をかけられていた。
「確かにありゃギャフンっスわ。監督のあんな顔始めて見たし」
「人ナメた態度ばっかとってからだ、つっとけ!」
なんか、火神くんは本当に清々しそうですね。
でも、私本当に気になる。
とすん、とエナメルかばんを床に置きながら、テツヤくんが呟きを漏らす。
「火神くん……」
『……』
「ゴールって…いくらするんですかね?」
「え!?あれって弁償!?」
ああ、私が本当に疑問に思っていることを聞いてくれてありがとう、テツヤくん!!
その時、海常の監督の声が体育館内に響いた。相当腹が立ったのかな。でも、最初にこちらを馬鹿にしたのは向こうだ。
私は、本気でそう思っている。
「それでは試合再開します」
ぴーっと、笛の音が高らかに響く。
そして、コート上には、あの背の高いモデルさんが降り立った。
「やっと出やがったな…」
「スイッチはいるとモデルとは思えねー迫力だなオイ」
「…伊達じゃないですよ。中身も」
テツヤくんのその声は、真剣そのものだった。
しかし、次の瞬間。
「キャアア、黄瀬クーン!!」
……女子生徒の、甲高い悲鳴のようなエールが送られてきていた。
うるさい。
「うおわ!?なんじゃい?」
「あー、あれ?アイツがでるといつもっすよ……てゆーか、テメーもいつまでも手とか振ってんじゃねぇよ!!!」
「いてっ、スイマッセ――ンっっ」
おおおお!!海常のキャプテンすっごい好き!ああいう人本当に大好き!!やっぱり、こういう人のほうが付き合いやすいと思うんだよね!
それなのに、なんで女の子は皆イケメンさんみたいな人がいいのかな!?
ただの憧れなのかな!?
「シバくぞ!!」
「もうシバいてます…」
一応調べてきたところ、海上のあの4番の人は笠松幸男さんと言うらしい。うん、笠松先輩。ああいう人がいいよね、彼氏にするなら。
「てゆーか、今の状況分かってんのか黄瀬――!あんだけ盛大な挨拶もらったんだぞ、ウチは〜」
……めっちゃ肩パンしてる。結構強いと思うんだけど、それを普通に受けている側はそんなに痛くなさそう。あれか。体のつくりが違うとか?それとも、笠松先輩(この呼び方で定着させよう)が手加減しているとか?
「キッチリお返ししなきゃ失礼だろが!」
……あ、選手の顔に――なった。
始まった瞬間。イケメンさんがさっき火神くんがやったプレイをそのままお返しした。彼の洞察力というのは、本当に凄いと思う。一回みただけでできるというのは、本当に凄い。
たいてい、出来るにしても何度か連続でみて、自分で実行し、失敗しながら自分のものにするはず。それなのに、彼は本当に“一度見ただけ”で実行する。
それは、本当に才能だと思う。
「おおおおおお!!」
歓声が上がる。
それは、そのプレイの凄さに。
「バカヤローぶっ壊せっつたろうが!!」
「いって、スイマッセン!」
……笠松先輩はそういているけど、その威力は半端ではない。
だって、ゴールがまだぎしぎしといっている。
え、怖い。
殴られたらひとたまりもないじゃないですか。
いや、そんなことはどうでもいい。それよりも、この威力は、先ほどの火神くんよりも、さらに上にいっている。
「女の子にはあんまっスけど…バスケでお返し忘れたことはないんスわ」
ぴっと人差し指で火神君を指しながら、イケメンさんはそういった。
それはモデルの表情ではなく、確実に、バスケット選手そのものの表情で。茶化しているわけではなく、本気だった。
「上等だ!!黒子ォよこせ!!!」
瞬間に、火神君にボールが通る。
ダンクが決まる。
「こっちも全開でいくぞ!!」
海常の選手の士気が上がった。
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