Nightmare-6


フラフラとしながら、テイトたちがいそうな場所に行く。
行き着いたのは、やっぱり図書館だった。
ここ意外に場所をあまり知らないということもあり、シスター服をきた私はとぼとぼと歩いている。

小さくため息をつく。

……もう、やっぱりここにいない方がいいだろうなぁ……。

やっぱり、ここにいたら居心地がいいし、いつまでもぬるま湯につかったような感覚になってしまう。
でも、それではいけないと思ってしまう。
あくまで、私はお客という立場になるのだ。

少し変わった、〈異世界からのお客様〉。


「失礼ですが、何かお探しですか?」


カストルさんの声に、私は顔を上げる。
方を掴まれているのは、カストルさんと同じ司教服をきた人だった。

……でも、あんな人……、いたかな?

疑問に思ってると、その人が、振り向いた。

瞬間に、背筋がぞっとした。

振り向いた人は、見たことのある人だった。


「…ええ。ある司教様より。テイト=クラインにこれを渡して欲しいと頼まれまして」


そして、そう言ったかと思うと、私を見る。
シスター服をきているとこに驚いているのか、彼は少し驚いていた。
ちゃり、と音が鳴り、何かを手に握っている。


「……そこのあなた。待っていてください、必ず、こちらに連れ戻してさしたあげますから」


にこり、と微笑みを向けて、私に囁くように彼は言った。


「テイト?ユキ?」

「…」

『…え…?』


なぜ、誘われたのがわからなくて、思わずそんな言葉が出てきてしまう。


「〈どうか、私のことを思い出して欲しい〉」


いいながら、彼は手に持っていたものを投げる。

「〈私の名は、フェア=クロイツ〉」


驚きで止まったテイトがみえる。

カストルさんが動いた。

柱に磔にされるように、彼は無残な姿になった。
しかし、それでも彼は言葉を止めなかった。


「そこの愚かな司教に、教会は貴方の味方ではないと教えて貰いなさい」


テイトの驚きの表情で投げられたものを見つめていた。
私は、もうどうすればいいのかわからない。

脳裏に、優しげな表情の男性が思い浮かぶ。

どうして、私に見せるの……。

関係ない私を、巻き込まないで。

お願いだから、私を壊そうとしないで。

私は、自分で自分を守ることがいまは難しくなっているの。

私は、逃げたいのに、どうして、それを許してくれないの?


――…あの男も、魂が半分しかなかった…!!


――「片翼のコールか…」

――「闇のものたちがフェアローレンの封印を解こうとする度に、お前たちは戦い、その封印を守り抜いてきた。
この世界で〈07-GHOST〉意外で魂を操れるのものなど存在してはいかん」

――「古の予言にある。
〈黒い月は碧き魂を蝕して半分に満ち、緋き血を持て全能の神とならん〉
ミカエルの瞳によって封印されたフェアローレンの身体は千年以上眠り続け、
ラファエルの瞳によって封印されたフェアローレンの魂は、
この世に漂い、天に迎えられることなく、人間の身体に転生し続けている。
千年にも及ぶ天の裁きに、運命の歯車が狂い始めたんだよ」


ミカエルの瞳と
ラファエルの瞳は

《諸刃の剣》


――「まさか…奴は既にラファエルの心を開いてしまったと?」

――「…それはまだ、確信は持てないけど…」

――「闇のもの達がまだテイト君たちを狙ってくるという事は、《身体》の封印はまだとかれていない。
天は最後の切り札をこちらに導いてくださった」


テイト君と、ユキの運命と引き換えに―――――。


〈教会中庭〉


「おいおい、重くなったなお前等」

「ねえねえフラウ兄ちゃん!〈おおきくなーれ〉やってー」

「はは、しょがねぇ、な――――…」


瞬間、背筋がざわつきを感じた。
感じられる気配は、いいものではない。
思わず、振り返る。

周りにいる子どもが、不思議そうに見上げてきた。


「お前等、それは明日にしようぜ」


子どもの頭を軽くぽんと叩き、フラウが身を翻した。



私は、はっとした。
知らず、身体が勝手に動いていた。

どこに向かおうとしいているのかは分からない。
それでも、走らなければならないと思った。

息を切らして走り続ける。

そして、目の前に見知った長身の影を見つけて呼びかけた。


『フラウさん!!』


後ろに立つ。
彼の前に回り込もうとするが、それは部屋の中を見た瞬間にできなかった――否、できなくなった。


「やっと会えたね、ゼヘル」


そういって微笑んでいるのは、私にも見覚えがある子。

手に持っているものがなんなのか、私には分からなかった。
理解できなかった。
したく、なかった。

目の前に広がる、凄惨な光景に。

一瞬にして意識がそちらへと持っていかれる。

眼が、離せなくなる。
どうすればいいのか分からない。

目を離せばいいのだろうか。
それとも、このまま見つめ続けなければならないのだろうか。

手を伸ばせばいいのか、伸ばさなくてもいいのか。

理解できず、ただ呆然と突っ立っている。


「あー!キミも!!やっと見つけた!!」

『――っ!!』


言葉に詰まった。

その子は、手に持ったものをまるでごみでも捨てるかのように床に放り投げ、私の元へと走りよってくる。


「アヤナミ様が、キミを連れて来いっていってくださったんだ!ねえ、僕と一緒に着てよ」

『あ……』


さし伸ばされた手が、こんなにも怖いものだなんて知らなかった。

知らず、身体が後ろに下がっている。


「…っ!ユキに触るなっ!」

「……相変わらず傲慢だね、ゼヘル。でも、ボクは今お前と話がしたいんじゃない」

「オレは、テメェにこいつを近づけさせたくないんでね」

『フラ……さ……』

「しゃべらなくていい。隠れてていい」

『は……っ……』


その心遣いが、とても嬉しいと感じる。
それでも、今のこの状況を変えられることは、ないわけで。

いやでも目に入るその部屋の光景に、私はうずくまった。
目を覆い隠した。


「…なんで、お前はこういうところにばっかり出くわすんだろうな…」


挙句にコールにまで狙われやがる…、とフラウさんがこぼしているのを聞く。

そんな事、私が教えてほしい。

私が聞きたい。

何故、こんなにもこんな場面に出会ってしまうのか。
望んでいるわけではない。
むしろ、全力で回避していきたいのに。

どうして……私はこんな場面にばかり遭遇してしまうのか。

私のことを、〈この世界〉の神が認めていないとか?

異分子である私のことを壊そうとしてるとか?

十分に考えられることではあるが、〈この世界〉の神様がそんな事をして何の得があるのだろうか。
私なんかを相手にしても、何の意味もない。

くらりと、一瞬眩暈がした。


『……私…、ここにいない方が…いい?』

「そんな事は――」

「そう。君はここにいないほうがいい。僕達のほうにいた方が、絶対にいい」


甘い甘い、言葉だった。


『じゃあ、私の考えは…間違ってないの?』

「うん、何も間違ってないよ?」

『ここじゃないどこかにいけばいいの?』

「どこかは、僕達のところでいいんじゃないかな?」

『あなた達のところは…どこ?』

「僕達の上官の下だよ。あの人は、キミを欲している。君も一度会っているでしょ?アヤナミ様に」

「おい、適当な事……っ!!」

「黙ってなよ、ゼヘル。お前が口出すことじゃないだろ?」

「く……ッ!!」


止められる言葉。
フラウさんは、強引に見えるけれど、そうではない。
最後には必ず、選択肢を与えてくれる。

自分で決めた事を、そのまま実現してくれようとする。

ほたほたと、涙が落ちていく。

そのことに、私自身も驚いた。


『…!?』

「ユキ!?何で泣いて……っ!!」

『わから、な……』


パタパタと落ちていくその透明な雫に、困惑したのはフラウさんだけだった。


『……クロユリ君は……私が泣いたことに対して、驚かないの…?』

「驚かないよ。女の子だったらこの凄惨な光景を見たら泣き叫ぶものでしょ?」


…ああ、常識が、違ったんだ。


『…私は、ここにいないほうがいい?』


先ほど言った言葉を繰り返す。


「そう。君はここにいないほうがいい」

『どうして?』


疑問を、ぶつける。


「僕達の上司が君を待っているから」


求められているのは、本当に私だ。

それなのに、どうしてこんなにも怖く感じるのだろう。


『いか、ない……』


口から出たのは、否定の言葉。
どうしてそういったのか、自分でも分からない。

でも、それが自分の本音なんだとも、思った。



「よく言ったぜ、ユキ!!」

「……もう、そっちの甘言に惑わされちゃったのか…。もう少し早ければなぁ」

「テメェの言葉を聞くきはねぇ!!」


そういって、フラウさんは私をかばうように前に進みでる。


「図に乗るなよ、何を吠える」


そういって、クロユリ君は後ろに思い切り飛び、先ほど床に放り投げた男の首根っこをつかむと、こちらに向かって投げつけてきた。


『きゃあっ!!』


驚きと恐怖で悲鳴が出る。

……こういうときは、女の子らしい悲鳴が出るんだなーと、自分で感心。

投げられた人をフラウさんは受け止める。
そして少し目を瞠って言った。


「……!まだ、生きてる…!」


その言葉に、私も同じように目を見開く。

まだ生きている。

その言葉が、どれほど嬉しい言葉か。


『よか……!』


安堵する暇もないほど、クロユリ君の行動は早かった。


「所詮、お前も醜いバケモノ」


そういって、彼の周りに黒い塊が浮遊し、彼を囲っている。


「闇に溺れるがいい!!」


そして、そう叫んだかと思うと、先ほどまでクロユリ君を囲んでいた黒い塊が勢い欲フラウさんめがけれ放たれた。
アンなのに当たったら、私だったらひとたまりもない。
逃げたい。
それなのに、身体が凍ったように動かない。

余計な考えを考えているうちに、フラウさんと私の周りには、クロユリ君が飛ばした黒い塊が周りを囲む。

こんな状況をどうにかするような能力、私は持っていませんっ!!


『ちょ、え、まっ、て!?』


言葉につっかえながら待ったを出すが、そんな事は今はクロユリ君からしたら関係ないわけで。


「大丈夫大丈夫!もし君が怪我しても、僕達のところに連れ戻した後に、傷跡も残らない治療をしてあげるから」

『だ、大丈夫の要素があまりにもないのでは!?』


そう叫び返すが、クロユリ君はただただにっこりと笑っているだけだった。

そこ、笑って欲しいわけじゃないのに……!!

私が一人で勝手に葛藤しているとフラウさんは応戦し始めた。

手で闇をはらうように薙ぐ。
それに冷静に応戦するクロユリ君はくいと手を動かし、私たちの周りを囲っている闇を自在に動かす。

……うん、魔法使いみたいだね!!


『って、現実逃避してる場合じゃないし!!』


フラウさんは冷静に応戦をしている。
私が動揺しているからなのか、言葉をかけることもしない。


『……〈鎮まって〉』


声に、力を込めるように。
祈るように。

そうしなければ、ならないから。


「……!」


クロユリ君が驚いている。
フラウさんも。
それもそうだ。

私がこの能力を見せたいのは、一応テイトの前だけなんだから。

――さあ、言葉に力を込めて。
――声に出して外に吐き出そう。


「ユキ、お前……!?」

『……黙ってて、ごめんなさい』


小さく、短く謝罪する。
それでも、できるなら知られたくなかったのだ。

こんな気持ちの悪い、能力。

超能力ともなんだか違う気がする。

感情を持ってはいけない。
言葉に力を込めてはいけない。


ただ それをしただけで

私は

人を 殺す事ができるのだから……


瞬間に、フラウさんが何かを察したのか、彼の腕からあの大きな鎌が出てきた。

周りにいるものが、すべて吹っ飛ばされる。

そして、その鎌を見たクロユリ君の表情が歪んだ。


「テメーがテイトを狙ったヴァルスファイルだな?アイツには指一本触れさねぇ」


冷徹なその表情は、感情を剥ぎ取ったかのようなものだった。

それでも、クロユリ君の激昂はすごかった。


「貴様こそ!!その鎌に触れるな!!その鎌は、大切な…大切な…!!」


ドカッ、と何かを爆発させようとしているクロユリ君。
そんな事をしたら、貴方の体が持たないのではないの…?

しかし、それを制止する声が、私の中にも響いてきた。


―――「下がれクロユリ!!」


……っ!?
この声は、忘れるはずもない声。


――アヤナミ、さん!?


ざっと、フラウさんが鎌を一閃させる。
クロユリ君の身体を真っ二つにしたかと思ったが、しかし、まるでそこに実在していなかったかのように、クロユリ君の姿は、ぼう、と消えた。

呆然としてしまう。

しかし、冷静になって部屋の中を見た瞬間、再び冷静さがどこかに飛んでいった。


『あ……っ!!』


視界が涙で滲む。
思わずその場に座り込ん、頭を抱える。

見たくない。
見たくない、見たくない見たくない見たくない……!!

現実を見せないで。


「待ってろ!!今助けてやる!!」


フラウさんの声が響く。
それでも、私は目の前の現状を受け入れる事ができなくなった。

先ほどまで平気だったのが、おかしい。


(コイツは――…ヴァルスファイルの結界を描くときに使う剣…。奴等にとってごく初歩的な武器だ)


人を助けをしている、フラウさんがいるのに、私はただ怯える事しかできない。


(だが、あのガキは相当な手練。わざわざこんなものを使わなくても――…)


ばんっ、と大きな音を立てて、扉が開いた。


「こ…コレは一体…!?」

「何と言うことだ…まさかその剣は!!」


声が、響く。


「フラウ司教!!何故悪しき剣を封印無しでにぎれるのです!?
武器を捨てて両手を頭の後ろに組んで跪いてください!!」

「早く!!」

(……――え?)


どうして、フラウさんがそんな扱いをされないといけないの?

意味が分からない。

理解ができない。


(――参ったね。オレとした事が、こんなチープな罠に引っかかるとは…)

涙で滲んだ顔を上げれば、一人の男性が、私のそばに駆け寄ってきてくれた。


「大丈夫ですか!?こんな状況を見たのです…。精神的疲労があってもおかしくはありません……」

『あ……ち、が…っ!』

「この男と、ユキの手当てが先だ。それと、子どものヴァルスファイルを捜せ」


人がどんどんと集まっていく。

フラウさんとの距離も、自然と広がっていく。

フラウさんを見ると、彼は両腕を拘束されて、後ろで手錠をつながれているところだった。


「話は後でゆっくりと聞かせて頂きます」


告げられた言葉に、私が、目の前が真っ暗になった―――。

歩いていると、前からバスティン様が驚いたようにフラウさんを呼ぶ。


「フラウ司教…!!」


おそらく、騒ぎを聞きつけてきたのだろうと予想できる。

フラウさんは、ただバスティン様を安心させたい一新で笑顔を作っていた。
私には、それが泣き顔にも見えて仕方がなかったけれど…。


「大司教様が血圧上げてぶっ倒れないよう、そばにいてあげてください」


そういった後姿は、泣いている子供のようにも見える。


「お待ちなさい!!」


バスティン様の声が響く。


「彼はこんな事をする人間ではない!!」


必死に言い募っているバスティン様を見る、その冷静な瞳に、私は身震いした。


「心に闇を持たない人間などいません。バスティン様」


それから、彼等はフラウさんを静かに連行していった。




―――――(帝国)


「北の国のアントヴォルトの戦は指南を極めているそうですな」


会議室に響く声に、アヤナミは辟易していた。


――我らが目的を忘れたか、クロユリ


「このままでは退路を絶たれると?」

「アヤナミ参謀は我々の策にご不満のようだね」


アヤナミの中で、声が響いた。


――申し訳ございません。ゼヘルは拘束されました。予定通りです


そう報告をした後、クロユリから聞こえてくるものに、涙が混じったのを感覚敵に感じ取る。


――くやしいぃ…!!


感情が高ぶる。



――あんな…あんなヤツに、アヤナミ様の大切な鎌が汚されているかと思うと…!!


クロユリの悔しさが、じかに伝わってくる。


「ならば帝国随一の軍師であるアヤナミ君じきじきに出向いてもらってはどうかね?」

「アヤナミ君に二千もの兵は邪魔じゃろう。半分で十分かな?」

「引き受けましょう。兵は500で結構」


感情を表に出さず、アヤナミは言葉をさらりと返す。


――泣くな。お前の気持ち、鹿とこの胸に受け止めている


「ほう、たった500で引き受けるかね?」


アヤナミと“対話”している老人達は、内心ではアヤナミをコケにしている。
しかし、それがわかならないアヤナミではない。


「仰せのままに」


――だが、今は耐えろ。独断で動くな。我らは必ず、奴をこの手に入れねばならぬ


――…分かりました


そういって、アヤナミとの回線は途切れる。

クロユリの後ろから、ハルセがあらわれた。

ふわりと、クロユリを優しく包み込む。


「クロユリ様…」


クロユリは、その抱擁に、何の躊躇いも泣く飛び込んだ……。





―――――〈帝国END〉





―――――〈テイト〉


――〈どうか、私のことを思い出して欲しい〉


頭の中に響く声がある。
それは、とても優しい声であるとともに、とても悲しそうにそう訴えてきた。

テイトは考えた。


――オレの記憶ってどれくらい戻ってるんだろう
記憶をたどると必ず何処かで途切れてしまう

まるで、何もなかったかのように真っ白になる。

――が存在していた「世界」の輪郭は、まだ、ぼやけたままだ。


手に、〈フェア=クロイツ〉の司教パスをてに、ぼんやりと考える。
次第に、意識がぼうっもしてきた。

しかし、後ろから突然柔らかな声で声をかけられた。


「テイト君」

「ほああ!?」


驚きすぎて、体がすごくはねあがる。
肩に乗っていたミカゲが落ちてしまうほどには。

そろりと後ろを振り向くと、そこにはカストルとラブラドールが立っていた。


「カ…カストルさん…ラブラドールさん…」

「そのパスの持ち主とはお知り合いなのですか?」


カストルの質問に、テイトは少しだけ間をおいてから答えた。


「…はい。〈フェア=クロイツ〉は、オレのファーザーです。ファーザーがこの教会の司教だったなんて…」


今まで見たのこもないほどの子供っぽいその笑みにたいし、カストルとラブラドールはすこし困惑した表情を見せる。

大切そうに司教パスを胸にだいたテイトは、それでも、すくっと立ち上がり、目の前の司教に向かって、力強く言った。


「オレは、教会を信じています」


蘇った記憶の一部には、自分を優しく抱き上げで笑いかけてくれているファーザーの姿。

本当の子供のように。
慈しんでくれて、愛してくれた。


「ファーザーがオレを育ててくれた場所だから。教えてください。協会がオレの味方じゃないってどういう意味ですか?」


真剣なテイトのその表情に、さすがにカストルもラブラドールも居心地が悪くなる。

それでも、言葉を切り出したのはカストルだった。


「…フェア=クロイツ司教は、その昔、この教会を破門された人物です」


そのあまりにも衝撃の大きい話に、テイトは一瞬目を見張る。


「破門…って、どうしてファーザーがそんな目に!?」

「カストル、その話は…」


話を止めようとするラブラドールに、カストルはそへでも、それを制した。


「この子にならお話ししても構わないでしょう」


静かなその声には感情の見え隠れが一切ない。


「――彼は、決して許されない罪を犯しました」


その真剣な表情に、テイトは緊張した面持ちで次の言葉を待った。


「フェアローレンの体が千年以上眠り続ける〈パンドラの箱〉を奪って逃亡したのです」


言葉の大きさに、テイトはどう反応していいのかわからなかった。



―――――〈テイトEND〉




何度、やめてと訴えればいいのか。
何度、私を壊そうとすれば気が済むのか。

膝を抱きしめて、小さくなることで自分を守ろうとしている無力な私に、何を求めているのかがわからない。
必死になっている私を、あざ笑っているのだろうか。
罵って、楽しんでいるのだろうか。

無力な私に対して、怒っているのだろうか…?

この力があるから。
お前は自分の身を守ることが出来ると、勝手なことを押し付けられているような気がしてならない。
私にとっての平和とは、この力を使うことなく過ごすことなのに。

ここに来てから、命の危険を感じたことは何度もある。

しかし、それは私が狙われていたわけではない。
あくまで、テイトとともに行動した結果だ。

だからと言ってテイトが嫌いなわけではない。
むしろ、彼は好きだ。
とても大切に思える。

それなのに、周りが求めてくるのは、私の存在価値。
お前は、これだけのことが出来るのだから、それだけのことをしろと、声なき声が、私の周りでささやいている。

ふざけるな、と思った。
こんな狭い部屋に閉じ込めて、私を“保護”した気になっている大人なんて、大嫌いだ。
私の平穏をつぶそうとする人たちも、大嫌いだ。

ただ平和を望むことが、そんなにも罪深いことなのだろうか。
意味がわからない。




私を、―――――返して欲しいと、強く願った。




To be continued


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