Nightmare-5

重低音を大きく響かせながら、周りに振動が伝わってくる。


「い…いきなり襲ってきやがった!!こいつ一体…!?」


テイトの声が響く。

それに、フラウさんが静かに答えた。


「コイツは〈闇徒(ヴァルス)〉。コールに三つの願いを叶えられちまった奴の成れの果てだ」


黒い塊が、蒸発するような音を立てて消えていく。
人の姿が現れた。


『きゃあっ!!』


思わず悲鳴を上げる。
どうして〈この世界〉では、人がばかばか死んでいくのだろうか。

もう、外に出たくなくなりそうだ。


――!?コイツは、この間教会で殺された…


『……フラウさん……私を。離してくれませんか』

「は?何でだ」

『……ききたく、ない……』

「?」

『聞きたくない、だけです……』


なんとなく。
分かってきた。
この、法則性が……。


「ハクレンは?」


テイトが、ハクレンさんの方を見る。
気を失っているのを確認した。
ただそれだけだった事に安心したのか、テイトはフラウさんにお礼を言って、意識を失っていた。

私は、ばっと上を見る。

人影を二人捕らえ、目を見開く。

愛らしいその姿が、眼に焼きつく。


『!!』


目が。
あった。

にこりと微笑まれる。
背筋が、ぞっとした。

すう、と表情が消え、長身の影に向かってはき捨てた。


「この同族殺しが」


フラウさんが、手に持っていた鎌を思い切り投げ飛ばした。
しかし、私が状況を把握したときには、私が見た二つの影は跡形もなく消えていた。


「チッ…逃がしたか」

『……』


頭から、離れない。
どうして。

私はここにいるのか。

理解が出来ない。

何度も何度も自分に問いかけて。
それでも、分からないこと。

それが、何故今になって分かるなんて、愚かな考えをしてしまったのか―――。


『……フラウ…さ、ん……?』

「……お前も、こいつらと一緒に寝ていろ。これ以上、見なくていい……っ!」


そういって、彼は私を気絶させた―――――。





―――――
―――





「ひいっ、申し訳ございませんっ!!」

「何故アルドの死体が消えたのを黙っていた?」


感情の読めない、しかし、ひしひしと怒りが伝わってくるその雰囲気に、男はおびえていた。

あまり声を荒げないよう、フラウは勤めて静かな口調できいていた。


「ざ…罪人の死体など、誰も引き取り手がないもので、つい報告を…っ」


その言葉を聞いて、フラウはふと違和感を覚える。
ぐるりと、その場を見回した。
あるのは、白い壁に、幾人もの人間の死体。

しかし、生きている人間の人数が、少なかった。


「死体安置所の番は常時3人だろう。後の二人はどうした?」

「それが…」


きょろきょろと辺りを見回しても、やはりここには今フラウの目の前にいる一人の男しか存在していない。

男は、言いにくそうにフラウに報告を始める。


「アルドが神の罰を受けた事にビビって教会から逃げちまったんじゃないかと…。もう俺一人だけです……」

「逃げただぁ!?」

「馬鹿な奴等です。俺達みたいな人殺しが逃げ込める場所なんて、教会しかないのに―−…」



―――――〈教会会議場〉―――――


「三つの願いを叶えるのと引き換えに、〈魂〉を手にしたコールは、その抜け殻をも乗っ取り〈ヴァルス〉に進化する。
この世に存在するあらゆる生物を媒体に実体化して、人を襲うようになります」

「しかしアルドはコールになど取り付かれておらんかったはずだ」


その場の司教達の意見にジオが少し発言をする。


「ということは…」

「最近、教会の近辺でコールの飛来を多く見かけます。不吉の予兆なのでは?」

「おお、そういえば昨日も見かけましたぞ」

「今までこんな事はなかった」

「まさか、古の予言が――」

「口がすぎますぞ!!黒法術(ヴァルスファイル)を扱うものは、必ず死をもって贖うのが理である」


大人数が意見を言い合いながら、あちらこちらから怒号も聞こえる。

教会とは神聖な場所であり、不吉な事を口にするのは基本的にあまりよくない。

そのために、他人の発言に激怒する司教も出てくる。
自然、ざわつきが広がっている。

そんななか、カストルとラブラドール、フラウは、その原因がなんとなく理解しているために、他人の会話をただ黙して聞いていた。


――まずいな。原因はおそらく一つしかない。ミカエルの瞳を知るのは、私たち三人と教皇、そしてジオ大司教様だけ…。今、他の司教たちに情報を漏らすことは出来ない

――しかし、テイト君が狙いなら、わざわざアルドを殺さずとも他にやり方があったはず…

――ヴァルスファイルか…一体何を考えている?


会議は、そのまま少しの混乱の状態で、続くのだった。





―――
―――――




……夢を、見る。
久しぶりだ。
男の子の――テイトの夢。

どうして、私に見せようとするの?

何が目的なの?

夢の中で、声を発する事ができるのなら、私は絶対にそうきいている。
でも、私にはそれができない。

ただ、夢を見せられるだけだ。


――「テイト、寂しくないですか?一緒にお歌を歌いながら帰りましょう」

――「ボク、〈母さん〉がいなくても寂しくないよ。だって、ファーザーがいるもの」

――「あなたは私の宝物ですよ、テイト」





――しんしんと降り積もる雪の匂いに埋もれながら
――大好きな手に引かれて歩く
――ファーザーとの思い出はいつまでも淡く、儚くて
――隣を歩くオレは



―――――いつだって、幼い子どものままだ――…



そこで、夢は途切れた。

ふと、眼が覚める。

隣左右からも、覚醒の気配が漂ってきた。

驚いて、思わずガバッとおきようとしたけれど、両サイドのほうがその反応が早く、私はそれに乗り遅れた。
といっても、体がいうことを利かなかっただけなのだけれど。

あの高さから落下した衝撃を、体がまだ覚えていたらしく、思うように動いてくれない。

かたかたと体が震えているのに気付かない振りをする。

ハクレンさんが、呆然と呟いた。


「…ここはどこだ?」


ハクレンさんの呟きを聞かず、テイトはハクレンさんの体をぺたぺたと触り始めている。
…私もいるのだから、あまりそういうことはして欲しくない。


「ケ…ケガとかないか?」

「何をする貴様」


ぺたぺたと触ってくるテイトを無理矢理引っぺがしながら、私に気付く。
ぱちっと眼が合う。

ハクレンさんはしばらく、私がどうしていまだに横になっているのか分からなかったらしく、じっと見つめていた。

しかし、私の全身が小刻みに震えているのを認めると、少し驚いていた。


『……えっと…そんなにも驚かなくても……』

「…いや。やっぱり、ユキも女子だったのだなと……」

『再認識ですか……どうせ女の子っぽくないですよ……』


こんな面と向かって言われると、何気に傷つくのだけれど……。
彼は正直な人間だから仕方がない。

私はちょっと虚しくなったけれど、気にしないことにした。

コレは気にしたら負けだ……っ!!


「……ユキ、起こそうか?」

『………』

「?なんだ?どうした?」

『は…っ、恥ずかしいよ、ハクレンさん!?』

「なんでだ?レディを丁寧に扱うのは男の務めだろう」

『……っ!!そ、そんな扱いに私はなれてないんです!!なので、だい、だ、大丈夫です!!』

「未だに一人で起きれそうもないやつが何をいっている。いいから、遠慮するな」

『え、遠慮じゃないです!!』


そんな言い合いがしばらく続いた。

すると、テイトが私に向かって怒鳴った。


「ユキ!!なんであんな無茶をしたんだ!?」

『……へ?』

「お前、逃げられただろう!?オレぐらいなら簡単に!!」

『ちょ、ちょっと待って!?一体どこからそういう発想が出てきてるの!?私にそんな運動神経はないよ!?』

「嘘を言うなよ!」

『嘘じゃないよ!!』

「じゃあ、どうしてあの時オレを突き飛ばした!?」

『……っ!!』


ばれてないと思ったのに。
やっぱり、ばれていた。


『…テイトの、気のせいだいよ…。私は、そんな善人じゃない』


そう。
私は、やさしくなどない。

人を助けようという気持ちも、正直あまり持っていない。

私は、出来損ないだもの。


「ユキ、お前はもうオレのそばにいたらダメだ…ハクレンも…っ!昨夜のヤツはオレを狙って来たに違いない!!」

『……』


私は、どう反応すればいい?


「オレをかばったせいで、危うくユキが死ぬところだったんだ。ハクレンも同じ目にあわないとは言い切れない!!」

「は?何を言っている」

『……つい、条件反射で……』

「やっぱりオレを突き飛ばしたんじゃないか!!もうあんなマネをするんじゃねぇ!!
フラウが助けてくれなきゃ、今頃ユキは棺おけの中だ!!」


テイトの言葉に、私は少し頭の中を空にした。

――死ぬ事ができるのは、どれほど幸せな事なんだろうか。

そんなことを考えてしまう。

しかし、私のそんな心境を知ってか知らずか、ハクレンさんが言葉を紡いだ。


「…お前にどんな理由があるのか知らないが、いついかなる時でも、闇から人間を救うのが司教の使命だ」


そういったかと思うと、ハクレンさんはテイトにビシッと指を行きさして断言した。


「だからオレは逃げない。闇がお前を狙うならなおさらだ」

「なっ、何でそうなる!?」

『人の手は、握っておくべき……か…』


私の呟きに、ハクレンさんが反応する。


「言っておくが、今の言葉はお前にも言っていることだからな、ユキ」

『……』

「テイトと同じように、おそらくお前もあの闇に狙われている。詳しい事は、知らない。
しかし、かじりだけなら、少しだけテイトからきいた。
お前が、オレたちが今当たり前にいるこの世界の住人じゃないとしても、もうこの世界に来てしまったんだ。
この世界で生きていくしかできないのなら、お前にも救いの手は差し伸べられて然るべきだ。
そして、もしそんな救いの手がないと言うのなら、オレがユキに手を差し伸べる人間となろう」

『…ハクレンさん……っ』


どうして彼は、こんな優しさをもっているのだろう。
人の痛みを確実に読み取り、その傷を癒す言葉を言えるのだろう。

それは、どれだけほしいと思ってもなかなか手に入らない能力だと思う。


『……私には、その手をとる資格が…』

「ないとは言わせない。人類の中で、不必要な存在など存在しないのだ」

『それは……』


――多分、貴方が幸せな環境で育ったから、いえることなんじゃないの?


口をついてしまいそうな言葉を、必死に飲み下した。
言っていいことといけないことの区別くらい、さすがの私でも分かる。

それでも、そう思ってしまうのは、多分ハクレンさんが羨ましいからだと思う。

私にはないものをたくさん持っている彼は、いつまで立っても、おそらく私の憧れのような存在になるんだろうと思う。


「ユキ、お前が条件反射でも何でも、テイトを助けたのは誇りに思っていいことだ。
そして、テイトとオレは、お前を助けた事を誇りに思おう。
俺たちの呼びかけに応え、ユキは手を伸ばし、そしてつかんでくれた」

『……』


――ああ、何て、美しい人なのだろう……


この手を握れるのなら、どんなにいいことなのだろう。
どれだけ、満たされるのだろう。
彼のこの大きくて、暖かな手をp握れないのは、どれほど悔しく思わなければならないのだろう。

声を、言葉をかけてくれる彼に、どうしても泣きそうになる。


「互いを認め合い、共に戦う理由としては十分だが?」


そういって、差し出された手は、テイトにも差し出されている。

私とテイトは、差し出された手を見つめてから、怖気づいた。


――こうやって差し出された手に戸惑っていたのは
――また、あのときのように失ってしまうのなら
――この手で、守る事もできないのに


握る事が、どうしてできようか―――……?


『……ごめん、なさ…』

「悪ぃ…今のままじゃ、お前も…」


二人同時にフラッシュバックしたのは、忘れられないあの笑顔のせい。

輝きを、奪ってしまった。

だからこそ、ハクレンさんの手を、握ることはできない……!


「?」


ハクレンさんの疑問を浮かべるその表情とほぼ同時に、部屋中に目覚ましのベルが鳴り響いた。

と、同時に、部屋の中心にずっと静かに置いてあった棺桶が、大きな音を立てて開く。


「ギャーッ、棺桶が開いた!?」

「ていうか、何故ここに棺桶?」

『…………』


……常識はずれな事が起こりすぎて、だんだん慣れてきてしまった。

辛い…。

と、中に入っていた人物がくあ、と大きなあくびをした。


「ねみぃ…」


そういったかと思うと、ゴッ、と思い切り床に額をぶつけていた。


「お、お前どこで寝て…!!」

「フラウ司教。昨夜はありがとうございました」

「今度お前らの部屋番号教えろよ…」

『……』


どう反応していいのか、分からない。

ありがとうとお礼を言うべき?
それとも、どうして私などを助けたのと?

でも、それを言うのなら、テイトやハクレンさんにも同じことを言わないといけない。

でも、この世界でも……私のいる場所なんて……どこにもない。

それならいっそ、このままつかまった方がいいの?
彼らに――。


「お前らは早く仕度しろ」


はっとして、私は思考回路を中断させる。

こんな事ばかりを考えていてはいけない。

私は、私のできることをやりきらなければ…!!


『…もう、こんな時間なのね』

「どうせ遅刻だ。コレでも食ってけ」


そういってると同時に、二人からお腹の音がなる。

昨日あんな事があったから、多分気疲れもあるのだろう。


「お前、ザイフォンでフライパン温められるか?」

「おう、まかせろ」


そういって、テイトがフラウさんがもっているフライパンに熱を加えようとザイフォンを発動させた。

が。

ごっ、とものすごい勢いで発動した。


『わあっ!?』

「オレのブロンドヘアがあああああっ!!」

「だ、大丈夫ですか!?な…何やってんだテイトッ!?」

「ぐがっ…く…首輪があああああ!?」


ハクレンさんがテイトに近づき、質問をした。


「お前…料理したことないのか?」

「…ウェンディの丸焼きなら…焦げたけど……」

「それは料理ではない。山火事だ」

『……そのまえに、テイトの心配してあげない?ハクレンさん……』

「オレのフライパンは装甲車の鉄板じゃねぇんだぞ!!」

「悪かったな!!」


それから、ハクレンさんごもくもくと調理を始めたので、私もせかせかと手伝いを始めた。

それから数十分後……見事に作り上げられた食事を前に、テイトは自分の疑問をぶつけ始める。


「なあフラウ。昨夜の〈ヴァルス〉って、コールの一種なのか?成れの果てって言ってただろ ?」

「そうだな…」


フラウさんは、珍しく間を開けた。


「一般的にコールが人間の魂と身体を乗っ取った状態を指す。それが〈ヴァルス〉だ。
魂を持つこと、体を持つこと、これがこの世に存在するための絶対条件だ。
コールは闇そのもの。魂も体もねぇ。
だから、闇の力を使って人間の願いを叶え、その代償として魂と体を奪う」

「この花や、グラスにも魂が存在するのだ。物は大切にしろ」

「そうなの!?」

『でも…何のために?』


小さな疑問をぶつける。


「奴等はフェアローレンがこの世界で復活するための苗床。主の血となり、肉となるために、この世界を闇で身で見たそうとしているのさ」


自分の想像よりも、世界の理の違いが明らかに違った。


『……ヴァルスに取り付かれた人は…どうなるんですか…?』

「魂を抜かれた動く死人となる。ヴァルスに進化しちまったやつを救うには、奪われた魂ごと浄化させるしかねぇ」


……それは、遠まわしに行っているつもりなのか、分からないけれど。
結局のところ、その魂を持った人ごとどうにかしなければならないと言うことなのだろう。

結局のトコロ、人を殺してしまわないといけないという事だ。

……私にはできない。
元々そんな能力があるわけではないのだから心配する必要なんてないのだけれど。
それでも、私は自分の両手が血に染まることを想像すらできない。

テイトやフラウさんは、それをやってきたのだろうか。

自分の意思じゃないとしても。

義務で、仕方なくやらなければならなかったとしても。

それでも、二人はやってきたのだろう。

自分は、そんな風に保身に走って、テイトたちにやらせているに過ぎない。


「まあ、ヴァルスを浄化できる位になったら、司教としても一人前だな」


はっとする。


「ありがとうございました、フラウ司教!!」

「何でまた棺桶に入るんだよ!?」


棺桶の蓋を開け、既に中に入ろうとしているフラウさんに、テイトが冷静なツッコミを入れた。


「こっちのほうが落ち着くんだよ」


そういって、私たちを行かせてくれる。

テイトが、ふり向いて、もう一度フラウさんにお礼を言っていた。

そのとき、私は気づいた。

ちょうど棺桶のすぐそば。

そこに、花が香りを放っている事に。


『……!』


それに気づいた私は、思わずフラウさんを見てしまった。

眼が合う。

彼は、にっと笑いを浮かべていた。


「あれ?何かいつもより体が軽い」


一番前をハクレンさんが歩き、その次にテイトが歩き、私が最後だ。


『………ここに、いたら……』


私がいつか、壊れてしまいそうで怖い。

人の優しさに触れて、人の温かさに触れて……。
不安になってくる。

もといた世界でも、気味悪がられたこの能力は。
一体どこに行けば捨てられるのだろうか。

この世界で始めて使ったときも、テイトは驚いていた。
という事は、この世界でも浸透などしていない。

結局のところ、居場所がどこにもない。


「ハクレン!!」


突然の、テイトの呼びかけ。

思わず、足を止めてしまった。


「俺がお前を守れるぐらい強くなったら、ダチになってほしい!!」


……ああ。


――指から光が零れ落ちて 3週間がすぎた
――あの日 なす術もなく 無力だった自分と

――あの痛みを忘れる事は決してない

――ずぶ濡れのままで 這い上がれ
――指し伸ばされた手を 揺るぎない力で 守る為に


……私には、そんな強い言葉を言えることは……できない。


「バカだな……」

「何だと!?」


照れ隠しをしていうハクレンさん。
それに反抗してしまうテイト。

微笑ましい。

入れる隙など、ありはしない――。

知らず、私は来た道を戻っていた。


『はっ……はっ、…っはぁ……っ!』


壁に手をつく。

はっとしたが、遅かった。


「ラブラドールのヤツ…勝手なこといいやがって……」

――「どうした、ラブラドール。こんなところに呼び出して」
――「フラウ、お願いがあるんだ。テイト君の手を、絶対に離さないで」

「分かってるよ、ラブ…やっぱりムリヤリ部屋に返しときゃよかったぜ。ありゃ拷問だわ…」


……独り言を呟くフラウさんに、私はその場から動けなくなる。


――早く 夜になればいい
――一晩中火照り続けた右腕の熱を
――誰かに吸い取って欲しくて
――今日の狩を想像しながら
――また少しだけ 眠りに落ちる


ああ……ああ……っ!

私は、ここにいても何の役にも立たない。
そんな事は、とうの昔に理解している事だ。

どちらかというと、私が助けられなければならない側の人間なのに。


『……無力を…突きつけないで………っ!』


傷ついていく心を。


誰が癒してくれるの――?



―――――【教会・図書館】



「お久しぶりでございます。いつお帰りで?」

「4週間前だ」


本棚をはさんだ人間二人が、対話をする。


参謀部直属部隊(ブラックホーク)か。派手に動いてくれたな」

「少々確かめたい事がございまして」

「おかげで助かる。こちらも後少しでカタがつく」

「…実は、私どもが追っている罪人がここに紛れ込んでいるのです」

「データを」


さしだされたものを、受け取った。


「国家の危機です」

「分かった。引き受けよう」


歩き出す。
その先には、テイト。

思わず、ほくそ笑んでしまいそうだった。

しかし。

肩をつかまれた。


「失礼ですが、何かお探しですか?」


そこにいたのは、鳶色の髪を持つ、長身の人――カストルだった



To be continued


prev next

bkm



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -