Nightmare-2


横を通り過ぎようとしたら、腕をつかまれた。
それも、結構強い力で。

思わず、痛みに顔を顰めてしまうほど。


「お前は!!どうしてそう自分を卑下する!?」

『……っ!!い、た……!!』

「そういう態度が気に入らない。何故もっと自分に自信を持たない。どうしてそこまで自分を陥れようとする!」

『……っ!』

「確かに、俺はお前のことを知らない。だが、知ろうとしても、お前がオレを拒絶するからお前のことを知ることができないだけだろう!」

『いつ、私があなたを拒絶したのよ!』

「毎回だ。俺の何が気に食わない」

『別に……私は……』

「そうやって俯いて、今もオレの顔を見ようともしない、会話をするとき、お前はオレの目を、顔を見て話していないと気付いていないのか?」

『……』

「その自覚すらないのか。相当嫌われているようだな」

『あなただって、私の事を嫌っているわ。お互い様よ』

「そうだな。だが、オレはお前の事を嫌っている訳ではない」


そういってくるハクレンさん。
しかし、私にどうしてそれを信じろと言うのだろう。

人を疑う事しかできない私に、どうしてそんな事ばかりを言うのだろうか。

ひどいと思う。
とても、酷いと思う。

私の心に簡単に入り込んで、暴こうとする。
それは、許されない事だ。

私の中に、簡単に入る事なんて許さない。
絶対に、目の前のこの男に――私の胸の内を暴かれてたまるものか。

私は、こんな人に私を暴かれない。


「…拒絶ばかりを、するのだな」

『そうね。私は、あなたに私の胸の内を暴かれたくないと願っているわ。だから、あなたを受け入れることはできない』

「今は?」

『分からない。もしかしたら、“これから”も、かも知れないわ』

「………」

『私が臆病なだけよ。分かっているわ、それでも。私はその臆病な自分を受け入れているのよ。臆病だって自覚しているわ。こんなんじゃダメだってこともちゃんと分かっている。それでも、過去が――私の中に根付いて私から離れてくれないののよ……』

「……」

『あなたは美しいと思うわ、ハクレンさん。私なんかよりもずっと』

「な……っ!?」

『自分を偽る事がないんだもの。自分を裏切る事がないんだもの。信じたものを貫き通して、そしてそれが正しいと信じ続ける事ができる。とても、素晴らしい事だわ。でも――』

「……お前が言いたいことはなんとなく分かる。――それが出来ない人間もいると、言いたいのだろう?」

『…ええ、そのとおりよ。自分に自信のない人間だって、存在しているのよ。それでも、あなたはそれをあなたの中で受け入れようとしていない。相手に、自分と同じものを求めようとしてくる』

「そんなはずは……」

『あるの。……あるのよ。少なくとも、私はそう感じたわ』

「それは、お前の思い込みという可能性もあるだろう」

『そうね、だけどそこはあまり重要ではないわ。大切な部分は、“私がそう感じた”と言う事よ』


そういった私に、彼は少し驚いていた。
言われたことがないのだろうか?
それはそれで、少し幼い感じをわたしに印象として持たせた。


「では……どうすれば、そんな不快な思いを相手に持たせないようにできる?人間というものは生きているんだ。それなのに、相手に不快感を与えないというのは不可能だ」

『べつに、それをしろとはいっていないわ。私はただ、そうやって思ってしまう人間もいるということを伝えたかっただけよ』

「だが、オレはずっとこうして生きてきたんだ。今更……」

『変えろだなんて言うつもりなんてないわ。今までのその生活と環境が、今のあなたを作り出してきたんだもの。それを否定する事は、むしろ許されないことよ』

「……っ?」

『あなたが大切にもっている思い出こそが、今のあなたを作り上げているといっても過言ではないの。人間っていうのは、そういう生き物なのよ』


そう、人間とは、そういう生き物だ。
今までの生活を糧に、それらの思い出を体に刻み込み、その経験が人の人格につながっていく。


『たとえば、もしテイトに家族という暖かな環境が存在していたとしたら?彼はここにいなかったのかしら?
逆に、もし家族が存在していなかったとしたら?彼はここに必然的に、もしくは偶然ここに導かれたかもしれない』

「…何故、家族の話を仮定に出す?」

『簡単な事よ。私に、その暖かな環境があまりにも当たり前に存在していなかったから』

「なにっ?」

『私は、お母さんの暖かさも、お父さんの厳しさも、何も知らずに育ったといっても過言ではないと思っているわ。
知っているのは、友達の暖かな優しさだけよ。私のことを何でも受け入れてくれた、一人の子だけの暖かさ。
でも、ここにきて、私はさらにイロイロな事を知ったの』


初めて落ちてしまった場所である、あの軍の試験会場。
あそこで出逢った、心の暖かい人。

そして、上辺だけの笑顔浮かべて、内心ではとても疑り深い人。

幼いのに、軍の部隊にすでに入っている天才。

冷静沈着な人。

そして、それらの人間をまとめている、冷酷で、冷徹で、残酷で、狡猾な人――。


『私だって、少しはかわりたいと思っているわ。でも、その一歩を踏み出すことが怖い……』

「……お前は………」

『私が踏み出してしまったら、私を助けようとしてくれた人の思いが無駄になってしまうかもしれない……。
こんな事を経験するとは思ってなかったの……』

「……ユキ……?」

『私だって、胸のうちにある思いはたくさんあるわよ……』


思わず、弱音を吐いてしまった。

発してからはっとして、私は俯く。

握られている手首は、痛くなどないし、下手すればすぐに振り払ってにげられる。
それほど、彼は、私の言葉に衝撃を受けている。

どう反応すればいいのか分からないと言いたそうな表情だ。

私の言葉に困惑しているようだ。

……正直、私もいたたまれない。


「……部屋に入って寝たほうがいいだろう」

『え…?』

「そのままだと風邪を引く」

『……私は、別に大丈夫よ』

「ダメだ」

『………』


急に頑なになった。
何があったのか。
どうしてこんな状況になってしまったのか。


「お前は、大切にされている」

『……っ!!』

「それだけは、忘れないほうがいいと思うぞ?」

『…ハクレン、さん……?』

「忘れられない事柄があるのなら、それは忘れてはならない事だ。お前の胸につっかえているものがあるのなら、それが自然の取れるのを待てばいい。
それを無理矢理自分の納得するようにする必要はない」


何故、急にこんなことを言い出したのだろうか。

私が気に入らなかったのでは?
違うのだろうか?

酷く、意味が分からないが、私が犯した間違いは唯一つ。



―――他人に、自分の弱みをはいてしまった事―――



それが、いけなかったのだ。

何故、言葉を声に出してしまったのだろか。

と、突然、ハクレンさんが私を優しく抱きしめた。

まるで、真綿にくるむように、そっと。

慈しむように。

優しく――。


「お前が、自分を許せないというのなら、他人に許してもらえばいい。お前のその罪を許せるぐらいの心の広いやつを、見つけ出せばいい」


簡単に、言ってくれるな、とおもった。
それが出来れば苦労なんてしない。
それが叶うならば、私はこんなにも苦しんでいない。

ハクレンさんは、わたしの事が嫌いなはずなのに、どうして私の心を癒すようなことを言うのだろうか?

惑わされてしまう。
期待してしまう。
それを、してはいけないと、自身を牽制しても……。

優しさを求める私の心は、まるで終点を知らない。
他人の優しさに縋りつき、それに身を委ねようとする。

一体、どうしてこんな性格になってしまったのか、まったく分からない。
それなのに、それを疑問にすら思っていなかった自分が、ずっといた。


『……私に、優しくしないで………』


切実な願いを、きっと、ハクレンさんは聞き届けてはくれない。
彼は、優しい。
そして、誠実で、頑なだ。

一度自分の決めた事は、おそらく覆してはくれない。

それでも。

私にそのやさしさを向けることは、して欲しくなかった――――――。




―――【次の日】




結局、ハクレンさんに無理矢理部屋に押し込められ、仕方がなかったので、そのまま床に寝転がって寝た。
それを見た彼はあまりいい顔はしなかったが、私の頑固さを既に目の当たりにしていたからか、それ以上は何も言わなかった。

ハクレンさんが折れた形になる。

起きてすぐ困ったのは、どうやって着替えようかという事だった。

パチッと目が覚めてむくりと起き上がった私の目に入ったのは、上半身裸の男二人。
思考が働いていなかったため、最初何が起こっているのか理解できなかったが、だんだんと頭がはっきりとした瞬間、思考が一度フリーズし、そして、思わず叫びそうになるのを何とか抑えた。

私のその反応で何かを悟ったハクレンさんは一気に顔を赤くして私に思い切り掛け布団をかぶせてきた。


「しっ、しばらくそれを被っていろ!!」


と、怒声付きで。

これは不可抗力だ、私は何も悪くないと暗示にも近い状態で私は布団の中で呟き、波乱万丈な朝だった。

これからは、着替えにも十分注意しなければならないと、心に誓った朝でもある。

彼らの着替えが終わり、一緒に行動をしている二人のあとを、金魚の糞のようについて廻る私。

……正直、立場が逆だったら、相当にうざがっているような気がする。

が、二人からはまったくそんな気配は感じず、少し安堵している自分がいるのも確かだった。

二人についていくうちに、私たちは、洞窟のようなところに行き着いた。


『……洞窟…?』


思わず、声に出してしまったが、私の声が小さかったのと、周りのざわめきがあってか、二人には気付かれていない。

本当に、〈この世界〉の教会はすごい。
世界的ルールからして既に違う事だらけなのだが、やっぱり、教会の中にこういうものがあるというのも、すごいなーと感動してしまう。

洞窟の入り口付近に行くと、少しいかつい感じの男性がそこに腰を落ち着けていた。


「受付はここだぜ」


発した声は心なしか優しかったが、見た目的に結構怖い。
それでも、男性の顔には微笑が浮かんでいた。

私たちは紙にサインをし――といっても、私は〈この世界〉の文字を知らないのでテイトが記入しれくれた――中に入れてもらった。

受付から少し離れたところで、ハクレンさんがぼそりと言う。


「あの腕輪は元罪人だな。罪を償ったからああやって働けるんだろうが……」


何か、含みのあることを彼は言う。


「気をつけるに越したことはない」


そう言葉をかけられているテイトの表情は真剣に何かを考えていた。
それが手に取るように分かってしまうのがつらい。

私は、思わず、テイトの手をぎゅうっと握った。


「……ッユキ?」

『…頼りないけど、私…すごく頼りないけど……テイトのそばに、ちゃんといるから……』

「……ッ!!」


願いを込める。
一人で無理をしないでと。
あなたは、決して一人ではないのだという、思いを込めて。


「……ありがとう」


その言葉に、私の言葉は、気持ちは――彼に届いていないと確信してしまった。

泣きたい気持ちを堪えて、私はテイトの手から自分の手を離す。
気持ちが、思いが届かない事が、こんなにも辛い事だとは思いもしなかった。

そのとき、後ろで低い呻き声が聞こえたすぐ後に、どさっと倒れる音がして私は驚いて後ろを振り返る。

そこには、先ほどまで受付を管理していた男性が倒れていた。

それを見ていた受験者の子達は、一応は心配しているものの、各々、怖さを隠していなかった。


「おい!アイツいきなり倒れたぜ…」

「お前見に行けよ!」

「罪人だろ……?怖えーよ」


その会話に、私は苛立つ。

罪人だろうがなんだろうが、彼は既に罪を償った人なのだ。
それで何故怖がる必要があるのだろうか。

私は駆け出した。
同時に、誰かも駆け出した。


『大丈夫ですか!?』

「大丈夫かオッサン!!」


テイトだ、と自覚する。

しかし、そんな暇もなく、私は男性の体を少し見る。
体が震えている。
何があったのかは分からないが、早くどこか休める場所に連れて行ったほうがいいに決まっている。

そう思っていると、テイトの行動が早かった。
肩に腕を回し、彼は周りに訪ねるように大声を出す。


「救護室は!?」


周りが誰も動こうとしていなかった事に、声を上げようとしたとき、反対側の腕を肩にかける人が現れた。


「こっちだ」


そういったのは、紛れもなく、ハクレンさんだった。

私は、テイトからミカゲをあずかって二人の後についていった。


――男性を救護室に運んでから、少しして。


私たちは結構な大人数で洞窟の中を歩いていた。

……ザイフォンという、特殊な能力を使えない私がどうして一緒に行動しているのかは、私にも謎だ。
というか、何故私がここにいることを許しているのだろうか。
謎すぎる。

そんな事を気にしていると、一番先頭を歩いていた女性の方が、少しふり向いて生徒に言葉をかける。


「これより先は結界の間を通過いたします」


女性がそう声をかけているが、生徒達は自分達の話に少し盛り上がっている様子だ。

自分のバクルスの話を自慢げにしている人が結構多い…。

すると、女性が完全に生徒達のほうへと体を向ける。

……少しずつ、頭痛がしてきた。
しかし、また気付かない振りができる。
まだ、大丈夫。


「あくまで練習の場とはいえ、どうぞ、心を強くお持ちくださいますように」


そういってから、彼女の後ろにある扉が、ギィィィ、と軋みを上げながら開いていった。

目の前に広がったそこは、長いトンネルのような空間だった。

一番驚いたのが、そのトンネルのような場所に、壁一枚を挟んだ向こう側のような空間に、〈コール〉がいることだった。

どうしてこの存在がここにいるのかは理解できないが、教会が捕まえたのだろうか。

ひゅんひゅんと飛んでいるそれは、とてもスピードが速い。
周りを見ても、驚いている人がほとんどだ。

テイトが壁――というよりも、おそらく結果だと思われるそれに近づいた。
私も興味本位で近づいてみた。

そろりと、手を伸ばしてみる。

強く、背中を押された。


『わ……っ!?』

「ユキ!!」


ずぶりと、結界から体が放りだされた。

結界の向こうは水で、息を吸い込んでいなかった私には結構辛い環境だった。

口の中から酸素を逃がしてしまい、息かが続かない。
助けを求めたい。
でも、それすら出来ない。

とりあえずがむしゃらに手を伸ばしていると、私の手をつかんでくれる手があった。
それが私を一気に引っ張ってくれる。

酸素を肺に吸い込もうとしたけれど、私は肺に入った水を出す事に専念した。

苦しいけれど、助けてくれた人にお礼をいわなければ。


『ありが、と……ございます……』


咳を途中途中ではさみながらも、私は賢明に言葉を紡ぎだす。
優しく背中をさする手があった。
突然の事に驚きながらも、御礼を欠いてはいけないという思考が働いた。
だから、お礼を言った。

しかし、相手は無理するなといわんばかりに背中をさすり続けてくれている。

誰だろうと思い、息が整ってきたから顔を上げてみてみると、そこにいたのはハクレンさんだった。


『ハクレンさん…だったんですね。ありがとうございます……。危うく溺れ死ぬところでした……』


ほけっと言葉にしたからか、彼はとても怒っているように見えた。

何をそんなにも怒っているのか、私には分からなくて、首を傾げるしかしなかった。
なにやら周りがとてもぴりっとした空気だったが、これは自覚してはならないものだ。

そう思っていると、こちらの騒ぎとは別の騒ぎが起こってた。


「うわっ!!」

「お気をつけくださいまし。水の中からは出られませんが、コールはすべて本物です」


テイトだった。
私と同じような事をしたらしいが、私とは違う驚きだった。

…まあ、普通結界を通り越して中に入ることはほとんどない。

しかし、制服が濡れてしまった。
ここの服はなんだかコスプレをしているみたいで、恥ずかしくて着ることができなかったのだが、これはさすがに覚悟を決めて着なければならないらしい。

ここから出たら、シスターさんに頼んで服を貸してもらおう……。

すくっと、ハクレンさんが立ち上がり、自分の手に何かをはめた。

そして、周りに見せ付けるように声を上げる。


「お子様は下がっているがいい」


ドドドッ、と水の結界の中にいるコールが一気に攻撃を受け、消えていく。
廻りもさすがにそれは感動したらしい。
声を上げて、ハクレンさんを褒めていた。




―――――〈テイト〉―――――



自分ではない他人がバクルスを使っているところを見て、テイトは結構冷静に分析をしていた。

どうやらハクレンは自分と同じ攻撃系のザイフォンの持ち主らしい。


――…今まで当たり前すぎて気付かなかったけど、ザイフォンっていうのは文字の形をしている。俺の気持ちそのものだ
――つまり、軍の武器は〈殺意〉のザイフォンで発動させていた
――でも、このバクルスは武器と同じ気持ちでは発動しない。……人を、殺める道具じゃないから
――あの時 救えなかった命を
――もう二度と失わないために!!


もっているバクルスが、バチバチと反応する。
しかし、ぼふん、と間抜けな音を立てて発動まではいかなかった。
周りからは、笑いがこぼれている。


「見ろよアイツ、上級用バクルスじゃん。ありえねー」

「なにチョーシこいてんだよ、使いこなせると思ってんのかぁ?」


――大丈夫、大丈夫


自己暗示に近い言葉を、何度も胸中で呟いていく。


――今のはちょっと力みすぎただけだ
――焦らないでやればいい


すると、テイトの横にいたハクレンが言葉を何気なくかけてくれた。


「そのバクルス、旧式だけどよく使い込まれているな。気持ちをあわせれば必ず応えてくれる」


その優しさが、テイトには歯がゆくて、少し照れてしまった。


「…ありがとう」


そのとき、後ろからぽん、と優しく肩をたたかれる。
ふり向くと、そこには優しげな風貌の男性が立っていた。


「さ、もう一度やってごらん」


――バスティン大司教補佐様…


優しい笑顔がとても印象に残る人物だ。

テイトが少しおろおろとしている事など気にしていないように、彼は微笑みながら声をかけた。


「神に仕える気持ちでこれを使って御覧なさい」

「は、はい…」


正直、分からない、というのがテイトの本音だった。


――神に仕える?
――…神様ってヤツが、どんなのか、分からないけど


真剣な横顔。
真剣な眼差し。
真剣な表情。

すべてを忘れ、ただひとつの事だけを、考える。


――もし、自分の心を支えてくれるのが神様だっていうなら


思い出す、大切な思い出。


――オレは、お前を思うよ


テイトの周りに、風が巻き上がる。
しかし、テイト自身は気付いていない。

ただ必死に、思っていた。


――ミカゲ


ハクレンの、バスティンの、驚きの表情が隠せない。
巻き上がった風は、そのまま天を貫くほどの勢いで上へと逃げていった。

終わった瞬間に、テイトは自分がしたことに対してポカンと口を開けていた。
周りの生徒は、開いた口が塞がっていなかった。


「な…なんだ、アイツ…!?」

「バスティン様!!結界が壊れたらどうなさるおいつもりですか!!」


生徒を引導していた女性が息荒く、バスティンをしかりつけた。

バスティンと、当事者であるテイトは二人で頭を下げる。

結界は、張りなおしてくれている女性に任せ、テイト達のほうは、術を発動させたときにぽっきりと二つに折ってしまったバクルスを拾い集めていた。

拾ってくれていたバスティンが、杖の下側になるほうの裏を見たときに、言葉を呟く。


「おや…これはフラウ司教の杖ですね。底に名前が…」

「え…?」

「お、おい。フラウ司教って…」

「あの…?」

「ど、どうしよう、折っちまった!!やばい!!」

「ははは、彼もよく壊してましたよ」

「お前!!フラウ司教の何なんだ!?」


話に食いついてきたハクレン。
しかし、テイトは何故フラウがそんなにも噂の的になっているのか理解できず、常日頃思っている事をそのまま口に出す。


「?あのエロ司教がどうかしたのか?」

「誰がエロ司教じゃボケ―――ッ!!」


クロスタックルをかましてきたハクレンを避けきれず、もろにそれを受けてしまったテイト。
しかし、ハクレンは言葉を続ける。


「あの方は、二次試験である法術試験の歴代最高特典の保持者なんだ!!」


声高に言われたその言葉に、テイトは思わず呆然としてしまう。


「そんな事も知らないでそれを使ってたのかよ。呆れたやつだな」


その言葉を聞いたテイトは、本当に自分が何も知らない事を思い知らされ、手に持っていたバクルスを、血の滲んだ手でぎゅっと握った。



―――――【テイトEND】―――――



〈門〉


こんこん、と外から門を叩く音がした。
そして、慈悲を求める声。

門番として経っていた元罪人は、はっとしたように門を開ける。
そして、そこから記憶がなくなった。




……何故私はここで彼らの手伝いをしているのだろう。
あの後、テイトに近づいていったら、テイトは私がずぶ濡れになっている事に驚いていた。
むしろ気付いていなかったあなたを一瞬だけ薄情に思ってしまったよ。
まあ、テイトのほうもそれどころではなさそうだったので仕方がないけれど。

それよりも、彼の手が血で濡れていた事に驚き、私はびしょびしょになってしまっていたが、制服のポケットに入れていたハンカチで一応の応急処置をしておいた。

そして今。

何故私がスコップもって土を移動させ、穴を塞ぐ作業をしているのだろう。

これは、私完全に関係ないと思うのですが……。


「テメーのせいで練習場を追い出されたじゃねーか!!」

「悪かったよ。何度も謝ってるだろ?」

『……私にこそ謝ってほしいよ、二人とも……』

「「……すみません……」」

『…もう、いいよ。早く終わらせよう』


そういって、手を動かし弾めた瞬間。


「きゃあああああああ!!」


突然の悲鳴に驚いて、私がスコップを取り落とす。
からんと、乾いた音が響いた。

互いに何があったのかが気になり、いったん作業を止めて、悲鳴がした方へと走っていく。

そこで見たものとは。



―――――神の御加護があらんことを



そう、胸に刻まれた男性の死体。


脳裏に、冷笑を浮かべる人が、映った気がした。





「―――――良い夢を」





To be continued


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