反感・自嘲・苛立ち
この世の中で、最も嫌いな人種だ、とユアンは思った。
彼の身体へ流れる血が、人間のものである、というだけではない。取り澄ました顔や、興味の薄げな表情。何より、こちらがどれほど感情的になろうと、全て一瞥ですませるその態度が、気に入らなかった。
吠えたてる野良犬でも見遣るかのような、感情の見えない眼差しは、ユアンの神経を逆撫でする。彼の態度は、正に尊大な──彼に流れているという──貴族のそれを思わせた。高貴な血筋を思わせる、というのではない。彼の態度は、人を人とも思わず、兵士は須らく動く盾だとでも思っているような、貴族上がりの軍司令官どもと同じにとれた。貴族でなければ人ではないとでも言いたげな目線は、滅多に声を発しない彼の口よりも余程雄弁に意思を伝えてくる。
其処まで考えて、ユアンは、ああ、と嫌な笑みを浮かべた。
(野良犬の方がまだましか。)
あれは生き物だ、気まぐれに餌でも与えられることもあるだろう。増えすぎて、人に害を為さない限りは追い立てられもしない。八つ当たりに蹴られることもあるだろうが、生き物として認識ぐらいはされている。
(では、野良犬にも劣る、と思われている我らは、一体なんだというのか。)
会話らしい会話は勿論、皮肉への反論すらしてこない人間の同行者へ、一方的な苛立ちを募らせながら。ユアンは鋭く、舌打ちをした。
[終]
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後書き
感情描写の練習。
仲間になったばかりのユアンをイメージ。