彼が嘲ったのは誰か
わざとらしいな。そういって嘲るように笑った男へ、クラトスは無表情を崩さないまま、そうだな、と同調した。
「愛情を求めるには、相手を間違っている」
互いにな。
言葉を切って、目線をあわせると。クラトスは、ふ、と口許を緩めた。
「だが、それでも」
ただ数歩の距離も縮め無いまま真っ直に、正面へ立つ男を黙って見詰める。目を細め、眺めた緑の眼は。暗がりにあって尚、その色を損なわれることはない。
「傷を舐めあう相手には、丁度良いだろう」
挑発にもならない、提案するような穏やかさでもって言えば。男は僅かに眉をひそめた。何かを言い掛けるように薄い唇を開き、だがそれは何も紡ぐことが無いままに閉じられる。
「……ああ、その通りだ」
眉間に寄せた皺を深くして、皮肉とも自嘲とも取れない笑みを浮かべたユアンへ。ゆっくりと近付き、クラトスは静かに、口付けた。
[幕切]
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アトガキ
ユア(→)(←)クラ
傷の舐めあいでもいいと諦めてしまっている父さんと、心のともなわない言葉を告げられてそれを指摘したはいいが、相手にとって自分は何なのかと自嘲気味なユアン。