TOS-SS集 | ナノ
見惚れた、などと信じられるものか


 すっと伸びた指は白く、しなやかだった。旅をしているにしては手入れの行き届いた手である。節の目立たない細い指はささくれ一つ無く、ほんのりと色付いた爪先はきれいに整えられていた。
 すんなりとした手は、同じく滑らかな白い顎へと添えられている。考えるときの癖なのか、口元へ置いた手はそのままに、人差し指の腹で、ゆっくりと唇を撫ぜる。
 思案に暮れたように結ばれた唇はそれでもふっくらと柔らかそうに見えた。
「やはり、次の町でグミの補給をすべきだな」
 開かれた形のいい口唇から零れる言葉は、殆ど訛ることなく、発音までもが整えられていた。思えば、彼がテセアラの訛りを出すことは少なく。それが現れるのは、極稀に地名や人名を口にした時ぐらいのものだったように思う。
 怪訝そうに顰められた眉や、傾げた首へ揺れた髪は、実に特徴的な。光沢のある赤茶色をしていた。白ら面をなぞるように流れた髪は、光を透かすように細い──。
「どうした、ユアン」
「……いや、今自分の頭を心配していたところだ」


[終]

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[後書き]
父さんは元貴族ですから、それなりにケアとかしてあったらいいな、という話。しかし、書き初めて、旅なんかしてたら結構直ぐにボロボロになるよな、とも思った。




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