TOS-SS集 | ナノ
枯れ葉ですら踏み砕かれる時は声高に叫ぶというのに


 踏み締めた落ち葉が、踵の下で軽い音を立てて砕ける。
 実り多き秋は過ぎ行き、世間はすでに冬の様相を呈しつつあった。紅葉と呼ぶには些か色の変わり過ぎた木の葉は、寒風に晒され、その殆どが枝に留まることなく地に落ちていく。名残惜しげに、風に乗り舞うように落ちる枯れ葉は、何十にも重なりあった先達の上へと音もなく積もっていった。周囲を取り囲む木々には未だ多くの葉が残ってはいるものの、その何れもが赤茶に色を変えている。
 地面の色も確認できないほどの落ち葉の群れの中へ、ともすれば埋まりそうな足を何度か踏み締めるように置き直して。その都度がさがさと音を立てる葉に、ユアンは顔をしかめた。
 鼻先を掠める風は渇いた臭いを孕み、吸い込んだ空気は冷えきっている。鼻の奥から眉間にかけて痛みを感じたユアンは、自然と溜め息が洩れるのを、あえて止めもせずに肺から空気を抜いた。大袈裟な程に吐き出された息は白く空中に一瞬留まって直に霧散していく。
 冬、と言い切るには少しばかり暦が早過ぎる。冷えはじめた筋肉が痛むのを、ユアンは自覚し始めていた。

 都市部から続いていた街道を、北東へと伸びる脇道に外れて、歩くこと数日。目につきやすい街道や平原を避け、山際近くを旅路に選んだ結果であった。自分達が追われている身であると、一行が自覚していたのは勿論のこと、戦乱によって疲弊した国を歩くことの危険性は、考えずとも十分に理解していた。
 反乱を起こしたくて声を上げているわけではないのだと、少年は訴え続けていたが、少年と同じ狭間の者でありながら、人間の社会で生きてきた青年からすれば、それは認識の甘さから生じた考え意外の何物でもなかった。
 多くの国は、長引く戦乱の疲れから出る民草の不満や苦しみを、狭間の者へ対しての差別を利用することで矛先を逸らしている。下層民に、更に下が居るのだと思わせることで、不満を緩和させているのだ。生存権を奪い、生殺与奪権を全ての人間に与えることで国民の気を逸らしている。いわば狭間の者とは犠牲だ。ハーフエルフを吊るし上げることで、国としての体裁を保っているに過ぎない。
 国は、少年の活動によってハーフエルフたちが立ち上がることを恐れているのではない、と青年は考えていた。
 搾取されるのみであった彼等が今更立ち上がるとは、同族たる青年ですら思っていなかった。人間では持ち得ない力を持っていながらも、虐げられるに任せており、怯えることしかしない同族たちを、嫌悪こそすれ同情などしたこともなかった。皆がお前のように強いわけではない、と。指摘したのは同志たる人間であったが、人の中を自力で生き抜いてきた青年にとっては、それこそ甘えだと思えて仕方がなかった。
 国が恐れているのは、差別を使って国民の不満を逸らしている、という社会の仕組みを国民自身に気付かれ、そして国民の反発を得ることである。
 少年が反政府的な活動をしようとすまいと関係はなく、少年が声を上げている事自体が今の社会にとっては目障りなのだ。


------------------------
後書き


これはいつかの没文。
ネタを考えながら書きだしたら、書き出しからして本来のネタから大幅にずれていったので即没ったもの。だったはず。


back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -