少年と木
木は、静かに佇んでいた。
「これが」
少年が如何に懸命に腕を伸ばそうとも、抱えるには決して腕の長さが足りないであろう、太い木の幹。地面から所々覗く根はこの星の、どれ程深くまで張っているのか想像もつかない。少年や、彼の旅の仲間たちの胴回りよりも遥かに太い樹の枝は空へ向かって幾本も生え、さながら天を支える腕のようにも見える。そこから更に伸びるほっそりとした梢には、多くの葉や若い枝が芽吹き、生い茂っていた。
日の光を一身に受けて、張りのある緑の葉を煌めかせ、風に撫でられては涼やかな音を立てて揺れる。
「これが、大樹」
森の中にあって尚、この樹こそが生命を育むと言われるマナの樹であると彼らは一目で解った。
図らずも戦争の引き金となってしまった大樹は、今や枯れそうなのだと研究者や精霊たちから聞いた後でさえ、静かに佇み支障など何一つ無いように、少年の目には映った。
[終]
------------------------
後書き
書きかけ放置文。
エルフを守るために植えられた木と、そのエルフの血を引きながらも、疎まれる種族。
ただ、その木を守ろうと戦ったのは、その加護を得られなかった者たちだけだった、と。