誰もが不当な扱いを受けることなく。等しく権利を有し、皆が対等に言葉を交わすことの出来る世界を、といわれたところで僕には解らない。ただ。
【誰もが不当な扱いを受けることなく。等しく権利を有し、皆が対等に言葉を交わすことの出来る世界を、といわれたところで僕には解らない。ただ。】
しかし、空は一つしかないのだ、と少年は知っていた。
「僕が望んでいるのは、この星の上で、誰もが同じ空の下で同じように息をする。そういうことなんだ」
たった一日を食いつなぐためにパンを盗み、衛兵に見付からないように息を潜めたり。誰かに徒に殴られて、路地裏に転がってたった一人でひっそりと息を引き取らねばならないような事が無いような。
そんな単純なことを望んでいるのだ、と少年は主張していた。
「クラトスやユアンの言う権利だとか、平等だとか。そういうのは良く解らない」
ただ、世界が繋がっていて欲しいのだ、とそれこそが自分の望んでいる事なのだと。少年は青い瞳を真っ直ぐに、黙って話を聞いていた二人の男たちへと向ける。
少年にとって、これが初めての演説であった。
[終]
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後書き
ミトス。
差別を受けつづけた種族で、しかも人間の文化を嫌う森のエルフの集落で育ったのなら、クラトスやユアンに生存権だとか基本的人権が、とか。言われてもいまいち解らないだろうな、と。
それよりももっと単純で本質的なところで問題を理解していそうな。