TOS-SS集 | ナノ
風が強く、背中を押した。


【風が強く、背中を押した。】


 風が吹いていた。
 少年の背後に聳え立つ山から、吹き降ろすように、強く。風は吹き付けていた。濃い茶の短い髪は、揺られ揺らされ好き放題に外方を向いている。協調性の欠片もない髪を、しかし少年はたいして気にした様子もなく放ったまま。じ、と地面に座り込んでいた。尻に敷いた草は柔らかく、体を支えるように後ろについた手の、手の腹から手首までを頻りに擽っている。
「ロイド」
 草を踏む音もしなかった。気配すら気取らせない男の、低く名を呼ばう声に少年はわざと返事をしなかった。耳をそばだてて、ただ声を聞く。周囲の木々の揺れる音や葉の擦れる音にすら紛れて、聞き取りにくい静かな声は、ここ最近で随分と耳に馴染んでいた。
 声の主は、もう一度だけ名を呼ぶと、今度は返事を待たず、皆が呼んでいる、と続けた。
「そろそろ出発の準備をするそうだ」
 キャンプ地への帰還を促す言葉に、やはり少年は反応を返さなかった。
「……ロイド」
 黙ったままの少年に、背後から近づいた傭兵は、ぐしゃりと少年の焦げ茶色の頭を撫でた。常ならば反発するような男の行動にすら、少年はただ、うげっ、と声を上げるにとどめる。
「行くぞ」
「だぁー、もう。解ったよ」
 ハイマが近い。
 風は、立ち上がる少年の背中を、強く押した。


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[後書き]

文章リハビリ。
救いの塔付近で。
最近古代勇者一行話しか書かないもんだから、ロイドくんの性格が解らなくなってしまいまして。
と、いうか。
なんていうしんみりロイドくん?


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