力が欲しいと、切実に願った。
*流血表現注意
【力が欲しいと、切実に願った。】
緑の、煙るような濃い緑の中。剣を振るう度に千切れ、鮮血に染まりながら舞う新緑。
遠くで、草を揺らし立ち止まった妻。焦げ茶色の髪にはまだ色の若い葉が飾りのように付いていた。行き止まりに待ち伏せ。ディザイアン。
自分を足止めするように側面から打ち込んでくる男が三人。受け流して、駆ける。
妻は赤い服を着た子供をその腕からおろし、半ばまでこちらを──否、駆けだした息子を振り返った。取り押さえるように妻に掴みかかるディザイアンたち。抵抗する妻は何事かを叫んでいたが、耳鳴りが激しくて音は何も聞こえない。
左手が、妻の左手が。ディザイアンに捕まれている様子が、ちらりと見えた。か、と視界が狭まる。駆ける足が遅い。こんなにも、羽を欲したのは初めてだった。背後まで迫る追っ手はそのままに、駆けながら左腕で息子を拾い上げる。小さな青い花が踏みつけられ、足下に舞った。迎え討ちに来た男たちを、切り上げるように斜めに一閃。
草の上、組み伏せられた妻の、エクスフィアの着けられた首元に、誰かの爪が立てられた。
倒れ込む男たちの脇をすり抜けるように駆ける。木々の中を抜けると、風が強く吹いていた。流れる己の髪に、視界が赤く染まる。妻を押さえつけるディザイアンの内、何人かと目があった。目を見開く顔のやや下に狙いを付けて、大きく剣を横に薙ぎ払う。激しく鼓膜が揺れた。絶叫はディザイアンのものか、妻のものかも解らなかった。もしかすれば自分自身で叫んでいたのかもしれない。
首を刎ねられた男たちが、仰向けに倒れ草を赤く濡らす。
男たちの命を奪った凶刃は、右端の一人の首に埋まって止まっていた。油の捲いてしまったらしい剣をそのまま振り抜いて男を弾き飛ばす。
跳ねるようにして地面に叩きつけられた男は、首が奇妙な方向を向いていた。
腕の中の子供が暴れ、母に手を伸ばす。
森から自分を追っていたディザイアンたちがばらばらと出てきた。
アンナ、呼んで──声が出たかは解らなかったが、兎に角呼んで、ディザイアンを睨む。ロイドを抱えたままでは戦えない。アンナ、もう一度。半ば祈るように呼んで、その時ようやく妻の異変に気が付いた。
[幕切]
*【reaSon】の没シーン。
父さんの回想シーンです。
本文ではこのシーンはほぼカットされています。