井戸の奥に揺らめく水底のように。

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【井戸の奥に揺らめく水底のように。】


　復讐を口にする同族を目にする度、心の芯が凍えるほどの恐怖を感じた。いつか己も弟も、彼らと同じように心を闇に染めてしまうのではないかと。
「絶望しては駄目」
　約束しましょう、ミトス。
　震える掌で、弟の、怒りに冷たく強ばった指先を包み込んだ。ただ呼吸をするのですら、彼女らにとっては容易に許されることではない。しかし、それもこの姉弟が狭間の者であると周囲が知っているからこそであった。
「絶望するなら、静かに暮らす道を選びましょう」
　誰にも知られないように。ひっそりと。静かな土地で暮らそうと。そうすれば、誰を憎むこともしなくてすむ。向けられた憎悪に憎悪で答えることは、無意味なことだと。
　そう、自らにも言い聞かせるように、静かにしかし確かに、彼女は言った。




＊ファンダム２のマーテルさんの「絶望するなら、静かに暮らす道を選びましょうって」という台詞が好きです。自分に言い聞かせているところも心持ちあるのではないかな、とか思った末の掌編。