■obli | ナノ
さよならオニオン


 たまねぎと行動を共にするようになって数日。
 非戦闘員のたまねぎには敵が来たらとにかく逃げろ、と言い渡してあった。何せたまねぎだ。腰に剣は下げているものの、彼が剣を抜いているところなど見たことが無かった。そもそも剣を扱うことができるのかもノルドは知らない。
 素人に刃物は──といってもノルド自身実のところ剣の扱いも戦闘も特別な訓練を受けた試しなどなく。グレイ・プリンスから受けた手ほどき一回きりなのだが──危険な組み合わせだ。ナントカに刃物の次ぐらい危険だ。まして刀剣の素人二人が敵に向かって剣を振り回すなど、ぞっとしない。事故の元以外の何物でもないだろう。
 そう判断を下して、ノルドはたまねぎに敵を見つけ次第とにかく逃げること、決して手出しはするなと言い含めてあった。
 確かに、とにかく逃げろとはいったのだ。
 たまねぎは悪くない。悪くないのだが。
「逃げるにも限度があるだろおおおおおおお!」
 逃げるたまねぎを追う山賊を追うノルド。
 帝都からブラヴィルへ抜ける街道を外れ、山野を駆け抜ける三人。
「ちょっ、止まれ、たまねぎ! 追いつけないからああああ……! むしろ追い付くの無理だから、助けらんないこれええええ」
 息切れしつつ搾り出されたノルドの絶叫は、遥か前方を行くたまねぎに届くはずもなく。街道からはどんどん遠ざかり、急な斜面だろうと何だろうとものともせずに駆け上がっていく。流石はボズマー。
「もう、いい加減止まれ、止まれよおおおおお!!」
 ついには銀のロングソードを引き抜き振り回しながら最後尾を追いかけるノルド。
 別の街道までひたすら駆け続け、結局山賊が巡回兵に切り捨てられて、この奇妙な追いかけっこが終わったのは数時間後のこと。すっかり日が暮れた頃だった。
 倒れた山賊の生死の確認を巡回兵が行う隣で、ようやく立ち止まったたまねぎがそっと松明を差し出し、いい笑顔を向けたその瞬間。
 一度帝都に戻ってコイツは置いて行こう、とノルドは心に決めたのだった。


[幕切れ]


back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -