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帰って来た


*現パロですぞ、ご注意召されよ。


 硬いスーツの上着と簡単な惣菜の入ったコンビニの買い物袋を下げて、夏侯惇は一息ため息を吐いた。
 今日も今日とて凄まじい量の仕事であった。山ほど積まれた書類は果たして自分のところへ来るべき書類なのかどうかを仕分けることですらも困難であり、こうなった場合の取れる手段はただひとつ。一番上の書類から一枚ずつ目を通し、ひたすらに片付けてゆく、それのみであった。
 スーツのポケットを探ってアパートの鍵を引っ張り出すと、夏侯惇はもう一つため息を吐いた。ポケットに入れっぱなしにしてあった鍵は、すっかりと冷え切っており秋から冬への季節の変わり目を意識せざるを得ない。
 無造作に鍵を開けてドアを開く。古くなった蝶番の軋む音が、やけに耳に響いた。
「はあ、ただいま」
 返事が無いのは常である。乱雑に革靴を脱ぐと冷たい廊下に足をつけた。暗く寒い室内に、ふ、と気が滅入る。リビングダイニングの端に置かれたカウンターキッチン。そのテーブルの上へレジ袋を投げて、夏侯惇は再度大きくため息を吐いた。
 仕事は苦痛ではない。ただ時折、己のしていることに疑問を感じることがあった。特にこうして疲労と孤独を同時に感じる時、果たして己は何の為に働いているのかと自問自答を繰り返す。結論はいつも出なかった。
 夏侯惇は数度頭を掻くと、惣菜の入った袋に手をつけることなく、奥の寝室へと足を運んだ。
 考えても仕方のないことはそれ以上考えない。哲学だの何だのと小難しいことは、従兄弟の仕事だ。それは、彼の信条の一つであった。或いはそれこそが答えなのかも知れないと考えて、夏侯惇は綺麗に整えられたベッドの、掛け布団に手を掛ける。
 帰って寝るだけと化した家であるから、ベッドにだけは気を使った。
 睡眠は仕事の効率に関わる。それゆえに、余程のことがない限りは長時間の残業はしない、させない。従兄弟であり社長でもある曹孟徳その人の言葉であり、夏侯惇の勤めている会社の方針でもあった。
 白く柔らかい布団をめくり上げる。
 ふと、ぎょろりと動く何かと目が合った。
「漸く帰宅ですかな、元譲殿」
「っぎゃぁあああぁぁぁあああぁああ!??」




──帰って来たら部屋には変態が


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