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夜の果てに


 時代の変化に──否、変化では留まらない、時代の変わり目の更に一歩先。新たな時代の到来を指して、人は夜明けと呼ぶのだ、と、ミトス・ユグドラシルは師の掠れた低音を思い出していた。
 命を、その源たるマナを生み出す母なる大樹の下、二人の王は戦争の終結を宣言した。千年もの間世界中を舐め尽した大戦の火は、今、正に終わりを迎えようとしていた。ひとつの時代はこの瞬間に息絶え、新たなる時代を産んだのだ。
 二人の人間の王と、四人の追放者たちによって。
 歓喜する人々から発せられる奔流の如き熱気と、大樹から降り注ぐ霧雨のようなマナを全身に浴びる少年は、息が詰るほどの誇らしさと興奮から目を爛々と輝かせ、立ち会う人々の手を打つ音を聞いていた。
 郷里を逐われ、人に逐われ、世界中に拒まれた狭間ものの少年は、漸く世界からその存在を認められたのだと、感じていた。
 世界は変わるだろう。
 それは長く掛かるかもしれないが、きっと変わるはずだ。今、少年の存在が、この場に於いて認められているように。全ての狭間のものが、世界中の全ての命と存在が、親愛と慈しみの情を持って当たり前のようにその名を呼ばれる日が、必ず来るはずだと、少年は確信していた。
 その日が来るのは今ではないかもしれない。この日この時へ到るまで長き夜があったように、黎明の時は長く、混乱も続くことだろう。だがそれでも、聖地へ到るまでの道を決して諦めなかったように、諦めさえしなければ、自身の目指す世界は必ず実現するのだと。
 少年は固く拳を握り、顎を上げると。真っ直ぐに前を向いた。
 誼譟は、当面止みそうもなかった。


[幕切]


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