■tos | ナノ
時が満ちて意味を知る


*05.日々演じる愛想笑い
*06.結ばれぬ点と点
 上記二つの続きです。

「あの子、ハーフエルフだった」
 呟いた少年の目は、焚火の揺れる火にきらきらと輝いて見えた。
「宿の主の息子か?」
 爆ぜる焚火に小枝を放り込んで、軽く首を傾け斜向かいへ座った少年を見遣った騎士は、少し怪訝そうに問い返した。
 ハーフエルフと係わり合いにならないことを村の中で取り決めていると、言っていたのは宿の主人本人であった。
「……あの夫妻は、どちらも人間にしか見えなかったが」
 マナがどうこういうつもりはない。騎士は人間であり、生憎とマナを知覚することはできなかった。だが、人でも解る、エルフの特徴ともいえる尖耳や、線の細い面立ちがあの夫妻のどちらにも見て取れなかったのだ。
 最も、夫妻共にハーフエルフであるというのであれば、人間でありマナを探ることの出来ない騎士では解らない。ただ、ミトスが「あの子」と子供だけを限定したことが、騎士には引っ掛かっていた。
 ハーフエルフは、人とエルフの間へ生まれたものか、ハーフエルフ同士の夫妻の元へ生まれた者を言う。ハーフエルフと人の元へ生まれた者のことは、ハーフエルフと呼ばないのだと、騎士は聞き及んでいた。
 つまり、人の血が混ざっているにも関わらず、マナを識り、マナを繰ることの出来るものを、ハーフエルフと呼ばうのだと。
「うん、でもね。あの子はハーフエルフだったよ」
 僕たちが間違うわけがない。
 少年は、口元に笑みすら浮かべていた。
「宿の夫妻の子ではないようだったけれど」
 ミトスの隣で穏やかに零したマーテルは、あの子とは固有マナが似ていなかった、と指摘した。
「あの両親は全くの人間だったわ」
 湿気を含んだ小枝が、またぱしりと音を立てて爆ぜる。赤みがかった黄色の火花が、煙りの中に散った。
「きっと、拾われるか何かしたんだろうね」
「親には捨てられたのかもしれんがな」
「でも、宿の人は拾ったんだ。そして、多分だけどあの二人は子供がハーフエルフだって知ってる」
 火を見詰める少年は、やはり何処か嬉しそうであった。いつもなら噛み付くユアンの皮肉にも、声を荒げることすらなく、少し興奮したように語調を速めた。
「ねえ、解る? 彼らは守ろうとしたんだ」
 自分達の養い子を。
「きっと、僕たちを匿うことで村の人達に気付かれたく無かったんだ。だから、あんなに旦那さんは頑なで。奥さんは必死になって!」
 顔を上げた少年の頬は赤みを帯びていた。それが火の照り返しだけではないことは、力説するように握り締められた手や、強く光を放つ青い目から伺えた。
「僕、嬉しいんだ」
 彼らは、子供を愛するのに種族なんて見ていない。
 それが嬉しい、と言ったミトスに、騎士は、ああ、と漏らした。だから彼らはあの場で引いたのだろう、自らが傷付くことも厭わず。
 ただ、一人の子供の存在を嬉しそうに語るハーフエルフ達へ、騎士はせめて優しい彼らがこれ以上凍えぬように、と静かに火を掻いた。


[幕切]


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