■tos | ナノ
忘れたあの日の空


 明々と夜空に揺らめく炎を、少年は丘陵の上から見詰めていた。白亜都市。テセアラの王の都は一夜にして焼失しようとしていた。炎は濃紺の空を押しやり、空に赤を滲ませる。波紋のように空気に響く悲鳴は少年の心にも入り込み、響き渡っていた。
「僕は知っていたのに」
 彼らを助けることが出来なかった。
「僕は、知っていたのに」
 少年の切実なる訴えは、人々に届くことは無かった。握り締めた手は強張り、ともすれば泣き出しそうに眉根が寄せられる。
 言葉を信じるにたる証拠はあるか、と問われた時、少年にはなにも無かった。言い返せる言葉も、差し出せる証拠も、危険を訴え続ける時間も無かった。
 忘れはしない。
 少年は、その姉と騎士に促されるまで、天を焦がすその炎から目を逸らすことなく。ただ燃えゆく王都を見詰め続けていた。


[幕切]


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