無垢なる少年と
どうして、と零れ落ちた言葉に返答は無かった。
旅を続ければ続けるほどに、苦しく哀しい思いは増えていくのだと、少年は姉より言い聞かされていた。それを、覚悟しての旅なのだと、少年は自ら決意して矢面に立った。迫害や奇異の目に晒されながらも、変化を望み、声を上げることを決めた。失ったものを取り戻すためにも立ち上がる決意をした。
姉と共に郷里を追われた幼き日。
以来、少年の胸へ落ちる言葉は常に変わらなかった。ただ、かつて姉を困らせ哀しませるだけであったその言葉は、今は自問の言葉として、あるいは返事を求めぬ呟きとして空中に放たれるようになっていった。
たった数文字の単語は、少年を思慮深くさせた。
どうして、と繰り返して。少年は深く哀しみを湛えた青い瞳を前へ向けると。決して瞳を逸らすことなく、傷付いた世界を静かに見詰めつづけていた。
[終]