■tos | ナノ
頬を伝う想い


 するすると頬に跡をひく感覚。見つかるよりも先に拭ってしまおうと、少年は腕を伸ばした。手首にはめられた腕輪がカツ、と硬質な音を立てて揺れる。泣けば許されるだなどと、そんな単純なことを考えているとは思われたくなかった。涙をこぼしたところで現状を打破できるわけでもない。解っているというのに、次から次へと溢れてくる滴を止める術を、少年は持っていなかった。
 顔を伏せ、腕で顔を拭い、それでも涙の止まらぬ目元を手首の内側に擦りつけた。しゃっくりがでて止まらず、肩が大きく揺れる。同じ室内に居るはずの青髪の青年と少年の姉は、少年から途切れ途切れに聞かされた事柄に完全に沈黙していた。宿で借りた部屋は四人部屋だったが、現在室内には戸口に立ち尽くしたままの少年を入れて三人しか居なかった。
 重苦しい空気に、少年の詰まるような謝罪の声が断続的に響く。心の中には、後悔しかなかった。揺れる声と足下に嫌になるほどの無力感を感じていた。
「僕の、せいで……」
 うまく息が吸えない。息をすればその分涙が溢れてくるような気がして、ミトスは浅い息を繰り返した。ブーツと木製の床の映る視界がぼやけて、ギュッと目を閉じる。目元に押し当てたままの手首に濡れた感触がした。
「……ミトス」
 責めるようでもない、いつもの通りに落ち着いた透き通るような姉の声が、鼓膜を揺らした。何かを促すように室内に響く。泣いていても仕方がない、もう一度自分に言い聞かせて、しかし悲しみと後悔を止めることも出来ず少年は一層俯いた。
「ミトス」
 再度聞こえた声は、先ほどよりもぐっと近くで聞こえた。柔らかな香りと、暖かく包まれる感覚。そうっと包み込むように胸に抱かれて、少年は目を見開いていた。驚きと懐かしさに涙腺が壊れたように涙が止まる気配を見せない。大丈夫、大丈夫だからと小さく言い聞かせる姉の声は、しかしやはり不安を滲ませていた。
「助けに行きましょう」
 諦めるには早いわ。そう、自らにも言い聞かせるような姉の声は、優しく少年の心に染みて込んでいった。


[幕切]


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