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笑い合えた僕達が居た


 休日の市場は、家族連れで賑わっていた。子供が迷子にならないように手を繋ぐ母親。買い物袋を片手に持ちながら子供の頭を撫でてやる父親。両親に囲まれながら、カフェのおすすめメニューに描かれたジェラートに目を輝かせる子供。手を引っ張ってねだるその姿に、少年は羨望し、目を細めた。自分の持たないものを、容易に手に入れてしまえる彼らを羨んだところで仕方がないのだと、少年は知っていた。
 根負けした両親に連れられて、カフェに立ち寄る子供の後ろ姿を見送って、ミトスはそうっと視線を地に落とす。
「ミトス」
 背後から掛けられた仲間の声に、ミトスは一つ息をついた。さっきまでの自分を知られないように笑みを浮かべて、いい街だね、と口早に言いながら振り返る。そこには、声の主である青髪の青年が立っている筈であった。
「どうした」
 相変わらず愛想などとは無縁の、どこかふてぶてしい態度で立つ青年は、しかし全く似合わないものをその手に持っていた。鼻先に突きつけられた冷気に、思わず面食らう。
 ずい、と押しつけられたそれに、そっちこそどうしたのさ、と冷えたカップを受け取って、青年を見上げた。よく見れば、カップを押しつけてきた右手とは逆の手に自分のものなのか少年に押しつけてきたものと同じ、ピンクと白の二色のジェラートが入ったカップを持っていた。
「ストロベリーとバニラでよかっただろう」
 クラトスとマーテルは向こうのテラスで待っているぞ、と促すユアンは、立ったまま一口、ジェラートを口に運んだ。彼の指し示した通り、ストリートを数メートル進んだ先にあるジェラテリーアのオープン席で、少年の姉がにこにこと笑いながら手を振っていた。もう一人の仲間である騎士は、恐らく姉と騎士自身のジェラートを購入しているのだろう、その場には居なかった。
 行くぞ、と促された少年は、くすぐったいような、恥ずかしいような気持ちに顔を隠すように俯いた。
「僕、オレンジのほうがよかった」
「ならクラトスのと変えてもらえ」
 たしかあいつはオレンジソルベを頼んでいた筈だ。振り向かずに前を歩く青年に、もういいよ、と笑みをこぼした。ぱっと顔を上げて小走りにユアンの隣に並ぶ。
「ユアンとお揃いだなんて、クラトスがかわいそうだもの」
「もういい、寄越せ。私が食べる」
 ユアンお腹壊すよ、わざと呆れたように言いってミトスは、カップからストロベリージェラートを一口、掬って食べる。
 木漏れ日の下のオープン席には姉と、両手にジェラートを持った騎士が二人を待っていた。


[幕切]


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