白昼夢
裏切った相手が、今目の前にいる。
落ち着き払った所作、迷いなく剣を振るう姿を、少年は知っている。共に旅をしていた時から何年も経っているわけではないのに、その背中は、酷く懐かしく感じた。長く旅を共にしていたわけでもないというのに、傍らにあるだけでやけに安心感が沸いて来る。
つ、と視線を男の背中から左腕へと滑らせる。男の持つ剣が、盾が、あの頃とは違うと言うことを静かに思い出させた。
それでも。
「呆けている暇はないぞ」
鋭く指摘する声や、前を向いたままの視線は変わりなく、あっさりとこちらへ背中を預ける姿に信頼してくれているのではないかと思わせる。
後ろから刺されるかもしれないだとか、また土壇場で裏切るつもりなのかもしれないだとか。
そんなことをうたぐって警戒しているのは自分たちだけで、このまま仲間に戻ってくれるのではないかとすら。
そんな、非現実的な幻想。
[幕切]