夢現
広がる雪原に一人佇む天使を見た。
雪雲に重く弛んだ空を、じっと見詰めつづける姿は何かを考えているようにも、何も考えていないようにも見える。
覗く皮膚を切り付けるように強く吹き付ける雪に、なぶられるまま気配すらなく立ち尽くす男は、身じろぎ一つせず只そこにあった。行く先行く先で見かける姿に不可解な思いをしながらも、静かに天を仰ぐ天使に思わず目を奪われる。
白を基調とした服を身につけた天使は、雪を纏って今にもかき消えてしまうかのように映る。くすんだ赤の長い髪は風に揺れて、雪越しに見つめるロイドから天使の表情を隠してしまっていた。僅かに埋もれたブーツが、彼が長いことそこに立っていたことを物語っていた。
声をかけるべきか否か。考えて、積もった雪を乱雑に蹴る音と、己の名を呼ぶ声に意識をそちらにとられた。
瞬間、青い燐光が視界に瞬き、「あ、」と少年が声を漏らしたときには、足跡一つ残さずまるで最初からそこに存在しなかったかのように天使は姿を消してしまっていた。
[幕切]