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残像


 ジィイン──!
 痺れるような音をたてて剣がぶつかり合った。片腕だけの力では支え切れず、二刀で男の剣を挟むようにして受け止める。横凪ぎに繰り出された剣を早い段階で止めはしたたものの、掛かる剣の重さにカチカチと刃は震えていた。受け流そうにも明確過ぎる力量の差から、果して体勢を崩さずに相手の剣を流すことが出来るのかと自問する。
 男は少年の剣の師である。男に師事していまだ日は浅いが、彼は男がどれ程の剣の使い手であるか、十分過ぎるほどに知っていた。昨日、ハイマで受けた剣術指南の様子が、脳裏を掠める。ついで、ノイシュと共に佇んでいた今朝の姿。記憶の中のどちらの男も、今の男の行動とは結び付くものではなかった。
 こちらの姿勢を押し崩そうというのか、男が踏み込んでいた右足に力を込めたのが解る。咄嗟に右足を引いて、体重を左足に移動させた。体の向きを僅かに変えて受け止めきれない力を流す。
 そのまま男の体が半歩前にずれるのを横目に、摺るように小さな動作で男の側面に移動する。揺れる長い赤鳶色の髪の間から一瞬、赤い目が覗いた。焦りも動揺も見て取れない冷静な赤色と不意に視線がかちあう。死角に移動している筈のロイドから、今だ男の視線は外されていない。それは少年の動きが読まれていることを示していた。
 男は体勢を崩す事もなく力の向きだけを変えて、大きく左足を前に出すと、間合いを取ろうとした少年よりも速く、挟まれたままの剣を振り切った。
 後ろに引いた所を刀ごと押しきられて、派手に転倒する。手から離れた二振りの刀は高い音を響かせて床に転がっていった。
 力押しには限界がある。力で叶わぬ相手に挑むのであれば、技術でカバーすることだ。
 頭のなかで教える声は、低く掠れていた。
 力では男に敵わない。技術に至っては師である男の足元にも及ばない。
 肘をついて上体を起こすと、こちらに足を向ける男の顔がよく見えた。歩み寄ってきた男を、座り込んだまま、ただ眺める。剣を抜いてから、男は詠唱時以外に一言も声を発していない。目の前で立ち止まった今も、そうだった。
 真っ直ぐに少年を見下ろす表情は、稽古を付けてくれていた時のそれと被って見える。
「教えてくれよ」
 どうしたらいい?
「──……クラトス」
 振り上げられた剣の、尾を引く白光をロイドは目に焼き付けた。


[幕切]


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