見知らぬ誰かが目の前で号泣
あんまりよ。
そう叫んで髪を振り乱しテーブルに突っ伏したやけに野太い声の女性を前に、ユアンは遠い目をした。
ついさっきまで煩わしいとすら思っていた朝の喧騒は、今は聞こえない。それは、己が認識したくないが為に耳に入ってこないだけなのか、はたまたこの食堂内にいる全ての生き物が自分と目の前の女性の行く末に注目しているからなのか、まったくもって判断がつかない。
囃し立てられたほうが余程ましだ、ユアンがそう思っているうちに、潜められたさざめきの中で遠慮の無い声がはっきりと響きわたる。
「あら。泣かせては駄目よ、ユアン」
「随分と交遊関係が広いんだね、ユアン」
「本当に身に覚えは無いのだろうな、ユアン」
最も質が悪いのは身内──といっても過言はなかろう──であった。
本当に知らないんだと否定しようとも、さざめきさえも消えた空間で一層声高に泣く女性。宥めるマーテルのおっとりした声に、ますます冷たくなる周囲の──特にミトスの──視線。
まったくもって信用されていない様子にユアンは、あんまりだ、と心中で涙した。
[幕切]