高らかに響け、眠るまで
心臓は警鐘のように打ち鳴らされていた。
敵襲は思ったよりも早く、王国軍は陣形すら組めていなかった。結果、クラトス率いるテセアラ騎士団は国境線の内側までの撤退を余儀なくされた。奇襲ともいえるシルヴァラントからの襲撃は、引き連れていた隊に、致命的とまでは行かないまでも深刻な被害をもたらしていた。
やけに強い男がひとりいた。
青い髪の、ダブルブレードを使う男。久々にヒヤリとした。部下への指示も出せないほどの猛攻だった。それでも何とか上手く兵を下げると、集まった兵士たちの確認を済ませた後、設営の準備を部下に伝えた。
クラトスは一度ぐるりと周りを見渡す。よく、あの状況で生きて帰った。怪我人は多そうだが、死者が思っていたよりも少なかったことは幸いだった。
(シルヴァラントを甘く見ていたようだな)
自らの認識の甘さに僅かに苦い顔をして、クラトスは敵国による追撃の可能性を考えていた。昼間に受けた襲撃の規模から考えて数は互角かもう少し少ない位だろう。ついでに何やら男は名乗っていたのだが、生憎とクラトスに殺し合いを楽しむような趣味はなく。敵の名前など早々に忘れてしまった。
ふと抑えた心臓が強く脈打つのを感じて、クラトスはようやく一息つくと、追撃してくるであろうシルヴァラント軍を返り討ちにすべく参謀の元へと向かって歩きだした。
[幕切]