■tos | ナノ
始まりはいつだって、純粋無垢な


「純粋な好奇心だったんだと思うんだ」
 揺らめく野営の炎に目の底を照らされながら、ミトスは呟いた。
 片親には感じ取れないマナ。マナとは一体なになのか。最初の研究者と呼ばれるものたちは、きっとそれを知りたかったのだと。
 エルフと人間の特性を合わせ持つ狭間の者。豊富な好奇心とマナへの感性、それらを束ねる為の頭脳と、研究を支えるだけの長命さ。研究者として必要なものの大凡全てを、彼らはそれぞれの親から譲り受けていた。悠久を生きるには好奇心の強すぎる狭間の者たちは、その情熱をつぎ込むものの一つとしてマナ研究を選んだのであった。
「ほんの小さな温室だったんだってさ」
 最初に出来た魔導具とは、小さな温室のようなものだった。魔術の基本であるマナを収集する術を物質に刻み、周囲に集められたマナによって植物の生長を促す。本来よりも遙かに短いサイクルで農作物の収穫が行えるようになったことで、どうにか食糧事情の改善を行えるようになった。
 戦争によって人口の減っていた人間たちは、狭間の者の作り出した魔導具を率先して生活に取り入れることで、どうにか国家をなりたたせることが出来るようになったのである。
「でも、それだけじゃあ終わらなかった」
 不思議だね。
「一つのことが可能になると、その次を求めてしまう」
 果たして彼らの研究結果は実を結び、人類は本来手に入れられない筈の力を手にした。それらは魔科学と名付けられ、次第に兵器としての利用が考えられるようになっていったのである。
 前を向いたまま膝を抱える格好で続ける少年に、騎士は沈黙したまま火に枯れ木を足した。くべられたばかりの細い木がぱしりと爆ぜる。
「魔術の仕組みなんていうのは簡単さ。ようは集めたマナをどう練り上げて、どう放出するのか」
 ホースの先端をどう摘むのか。マナの収集と放出が出来るようになったなら、あとは如何に練り上げてどう制御をするのか。それは、柔軟な考え方を持つ狭間の者たちにとっては得意分野ともいえた。
「好奇心のほうが勝ってしまったんだね」
 どこまでが可能なのか確かめたいと考える者たちがいた。優秀な研究者たちは国によって召し抱えられていった。しかし、自ら承諾して研究所に入った者は一部に過ぎず。研究者不足に悩んだ人間たちは、ハーフエルフ狩りを始めた。それは人間よりも長命で異能を持つ狭間の者たちへの恐れも手伝い、より激しいものへとなっていった。
 身から出た錆ってやつさ。静かに、一際小さく呟いた声は少年の唇からこぼれて落ちた。
「彼らは、魔科学兵器の危険性を十分に知っていた筈なんだ」
 でも、止めなかった。
「そのツケは、同族に降り注いだ」
 千年にも及ぶと言われる、ハーフエルフへの差別という形で。
「だから、狭間の者である僕たちが止めないといけないんだ」
 この戦争を。そうでなければ、意味が無いんだ。
 強く言い切って、しかし少年は目一杯膝を引き寄せ、身を小さくした。

[幕切]



back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -