■tos | ナノ
弾け飛ぶ息吹を見ていた


 走竜に乗って突撃してくるシルヴァラント兵を睨み、クラトスは片手をあげた。
 各隊の隊長がそれを受けて号令を出す。前方で合図を待っていた兵たちが雷撃砲を構えた。
 傾斜面を駆け降りるシルヴァラントの兵たちを見据えたまま瞬き一つせず距離をはかる。
 射程距離まであと50m。兜の下で歯を食いしばる顔が見えた。これから自分が命を断つ相手の顔だ。覗く顎や口元は、まだ年若い青年のものだった。
 極限まで合図を出さないクラトスに、左翼の隊が僅かに動揺を始める。細波のように周囲に伝播し始めた不安を肌で感じ取りながら、それでもクラトスはあげた手を下ろさなかった。
 至近距離で放たねば雷撃砲の最大威力は引き出せない。長引く戦に国自体が疲弊し、ここ数十年は兵よりも兵器に頼る戦法になってきている。最も、軍事研究に必要な資源もマナのように無限にあるわけではない。ましてや国が疲弊している今、一撃足りとも無駄には出来ないというのが現状であった。
「よく──」
 引き付けろ、言う前に、大軍を前にして恐怖に耐え切れなくなったのか左翼から砲撃が放たれた。
 閃光と共に大気が揺れ、轟音が上がる。迫りくる戦線は一瞬揺れたが崩れるまでには到っていない。
 クラトスは寸でのところでため息を心中に留めると、
「放て」
 合図とともに一斉に吹き飛ばされる敵国の兵士達を目に焼き付けた。


[幕切]


back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -