白む空に恐れなど
なかなか整わない息に、僅かな苛立ちを感じた。額からは汗が噴き出し、鼻筋を伝って流れ落ちていく。息をする度に口から入ってくる空気は生臭く、肺に温い重みをともなって溜まっていった。
上がった体温が下がらない。頭の芯はぼうっと霞み、長剣を握る手は痺れたように動きはしない。耳の奥では耳鳴りが悲鳴のように鳴り響く。夜闇に塗り込められた視界には、何も写っていない。
うっすらと縁取られ始めた稜線に、それまで僅かにも動かなかった右手の指先がヒクリと反応した。拍子に指から剣が抜け落ち、鈍い水音を立てて地に転がる。白い軍靴に何かが飛び散った。
見たくない。
明らむ空に曝され始めた血場から目を逸らし、クラトスは無責任だと訴える心臓に、そうっと目蓋を下ろした。
[幕切]