■tos | ナノ
Familiar!


 柔らかい草の上へ腰を下ろし、一息つく。
 仲間と手分けしての探し物が続き、朝から歩き詰めの足は、臑の後ろ。丁度脹ら脛の辺りが腫れたようにぱちんぱちんになっていた。
 何度となく、少し休もう、と言ってくれた騎士へは。その都度、大丈夫だからと繰り返して来たが、一度休めた足は重怠く、少しの休憩では済みそうもないほど疲労していた。
 こんなに歩いたのは久しぶりであった。
 まだ両親が健在であった時分、親と仲違いをして一度だけ家出を試みたことがある。原因はすっかりと忘れてしまったが、己は両親にとって要らない子供なのだと思い込んだ幼い頃の自分は、ヘイムダールの端にあった家を飛び出し、ユミルの森を走れるだけ走った後、歩けるだけ歩いた。
 もう一歩も歩け無くなるまで歩いて、へとへとになった少年は、近くの木の根本へと腰を下ろして眠ってしまったのだ。ボアやオークロットの生息地域であるユミルの森を子供一人で踏破しようなどと、今考えればどれ程危険で無謀なことだったかと思う。
 目を覚ました時は、父と母に挟まれて姉と一緒にベッドの上に寝かされていた。姉弟を母が抱き、その母ごと父が抱いてくれていたことに目が覚めるなり気付いた自分は、何故だか──家出には失敗したにも関わらず──とても安心した気持ちになって、泣き出してしまった。泣き声に目を覚ました両親は己の無謀を責めもせず、ただ抱きしめてくれた。
 今でも、あの時の母の温もりは覚えている。
 包み込むような、それでいて抱き留めるような優しくもしっかりとした父の腕も。
「ミトス、どうした?」
 草の下、僅かに湿った地面は暖かく。
「あ、ううん」
 少年は静かに深呼吸をすると、
「ただちょっと、似てるな、と思ってさ」
 そう言って、意味を測りかねてきょとんとする騎士へ向け、ミトスはにこりと微笑んだ。


[幕切]


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